大尉たちの自慢話
自主訓練も終わり水を飲もうとバルクホルンが食堂へ向かうと、そこにはシャーリーがいて1人で大盛りの茹でジャガイモを食べていた。
「……訓練がないからと言って、昼食にも来ないと思ったら……。食事の時間ぐらい守れんのか、リベリアンは」
悪態をつきながらシャーリーの向かいの席に立つと、シャーリーはフォークをくわえたまま眉を寄せた。
「昼ご飯は食べたって」
気持ちを切り替えて、次のジャガイモにフォークを刺した。バルクホルンは「ん?」と首を傾げて席に着いた。
「だから、昼ご飯は食べたってば」
「食堂にはいなかっただろう」
「ハンガーで食べたんだよ」
「ハンガー?」
うん、と頷きながらも食べる手は止めないシャーリーに、半ば呆れながらバルクホルンは聞き返した。
「ダメ元でペリーヌに頼んだらさ、文句言いながらも持ってきてくれたんだよ」
「ペリーヌが!?」
笑いながらシャーリーはあっけらかんと言うが、出てきた意外な名前にバルクホルンは立ち上がってしまった。それを見たシャーリーは「どうしたんだよ」と小さく笑った。
「あ、いや……」
慌てて座りなおして、最近の2人を思い出した。考えてみれば、ペリーヌはシャーリーに対して気を許したような……坂本少佐とも他の隊員とも違うような態度をとってるように見える。しかし、意外と言えば意外という印象は拭いきれない。
「その、なんだ……ペリーヌには悪いが、どうもそんなイメージがなくてだな…」
申し訳なさそうに頬をポリポリと掻くバルクホルン。気にしていない様子でシャーリーはごちそうさま、とフォークを置いた。
「まぁ、そうかも知れないけど。……でもペリーヌはあぁ見えてすごく可愛いんだ」
何か思い出しているのか、嬉しそうに頬を緩ませて話すシャーリーを見て、うっすらと笑みが浮かんできた。
「な、なんだよ……」
「いや…。お前がスピード以外の事をそういう風に語るのが珍しくてな」
「失礼な奴だなぁ……。でも、それぐらいペリーヌに魅力があるって事なんだよ」
どこか得意気な表情のシャーリーに、腕を組んだバルクホルンは「それで?」と言葉を続けるようにと先を促した。
「ペリーヌはからかえば面白いし、なんだかんだで感情表現も分かりやすい。……言っちゃ悪いけど501じゃあ、あそこまで可愛い奴いないね」
その言葉に今までシャーリーの自慢話を黙って聞いていたバルクホルンの眉がピクリと動いた。
「……それは同意しかねる意見だな」
「はぁ?」
「感情表現が豊か、というのは認めるが……その後だ」
「後?」
わけがわからん、というジェスチャーをシャーリーが取るとバルクホルンはわざとらしいため息をついてシャーリーを真っ直ぐ見た。
「いいか?ここ501で一番可愛らしいのはハルトマンだ」
「……うわぁ」
「うわぁとはなんだ、うわぁとは」
バルクホルンの自信満々の発言には、さすがのシャーリーも引いてしまうようだ。
「ペリーヌも可愛いのかも知れんが、さすがにハルトマンに勝てるはずがないだろう」
1人納得したようにうんうんと頷くバルクホルンにカチンときたのか、シャーリーはテーブルに身を乗り出して反論する。
「いーやっ、ウルトラエースとは言っても可愛さじゃペリーヌの方が上だね」
「馬鹿を言うな。ハルトマンはまるで天使のような愛らしさだろう」
「ハルトマンは天使だって言うんなら、ペリーヌは仔犬みたいだぞ」
「仔犬が相手じゃ話にもならんな」
「天使なんて想像でしかないだろ。仔犬の可愛さは万国共通さ」
互いに譲らないノロケ合戦が始まったようだ。バルクホルンはあくまでも腕を組んで余裕があるように装って、シャーリーはそんなバルクホルンをおちょくるように彼女の真似をする。両者の間には火花が散っていてもおかしくない程だ。
「いつも自分から好きだ好きだと言う癖に、たまに私が好きだというと驚くほど狼狽するハルトマンの可愛さが分からんとは、リベリアンも可哀想だな」
「いつもは距離を置こうとする癖に、あたしが離れようとすると一瞬だけ寂しそうな表情になるペリーヌの可愛さは堅物のカールスラント軍人には理解できないのか……」
同時にそう言い、同時にため息をついて、同時に相手の顔を見た。そして歯を噛んで同時に「い〜!」と威嚇した。
***
「あら、ハルトマン中尉。……どうかしまして?」
ペリーヌが食堂の前を通りかかろうとすると、入り口付近の壁にもたれているエーリカを見つけた。
「…あぁ、ペリーヌ。今は食堂に近寄らない方がいいよ」
珍しく呆れ顔のエーリカは壁から背を離してペリーヌの方へと歩いてきた。すれ違い様に見たエーリカの頬が赤くなっているのを不思議に思いながらも、忠告を聞き入れて早歩きになっているエーリカの後を追った。
――――
大尉たちは色ボケしてそうですね!
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