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フライングバースデー
(not家族設定)







「お誕生日おめでとう、咲音ちゃん」

「…ふぇ?」

11月5日。午前0時ちょうどにヘッドフォンを外して、私は咲音ちゃんに振り返った。
咲音ちゃんは、私がさっき手渡した楽譜を隅から隅まで読んでいてくれていたので、驚いたように顔を上げた。私が何も指示しなくても、咲音ちゃんは歌う為に真剣に取り組んでくれる。作り手としてそれは凄く嬉しい。

壁にかけてある時計をちらりと見て、咲音ちゃんは頬を赤く染める。はにかんだ笑顔がとても可愛らしい。

「今日はいい日になるといいね」

「…えっと、うん。…そうだね」

「?」
いつもハキハキと喋る咲音ちゃんが珍しく口籠もった。誕生日なのに…変だよ?


「誕生日、嬉しくないの?」

「ううん。誕生日は凄く嬉しいよ!……年は取らなくても、ハクちゃんが凄く喜んでくれるもん」

「…」
「誕生日は」って、なんだか引っ掛かる言い方。


「…咲音ちゃん?」
どうかしたの、というニュアンスを込めて名前を呼ぶけれど、咲音ちゃんは視線を合わそうとしない。

しばしの沈黙のあと、咲音ちゃんは不意に笑顔になり私に視線をぶつけてきた。

「ありがとう!ハクちゃん!」

「え?」
なんだろう、この違和感。モヤモヤする。
さっきまでの照れたような恥ずかしそうな顔は消え去り、満面の笑みを浮かべる咲音ちゃんを不思議に思う。


「あの、咲音ちゃん?」

「なぁに?」

……いつもの咲音ちゃんだ。口籠もったりしない、明るい声。
目を白黒させる私に咲音ちゃんは「あのね、」と言葉を発した。


「ハクちゃん、時間にルーズだから黙ってたんだけどね」

「うん」

「あの時計、10分進めてるの」
と言いながら、咲音ちゃんはちらりと壁にかけた時計を見る。つられて私も見る。0:15ぐらい。
次に携帯を開いて時間を確認する。…表示は0:04。


「……」

「ハクちゃんが、おめでとうって言ってくれた時はまだ4日だったから……なんだか素直にありがとうって言いにくくて…」

「……」

「ごめんね、ハクちゃん!勝手に時計いじったりして……」
黙ったままの私に、咲音ちゃんは頭を下げた。もちろん、私は怒ってるわけじゃない。咲音ちゃんの私を想っての行動や素直すぎる行動に胸が一杯になってただけ。


「…ハク、ちゃん?」
心配そうに顔を覗き込んでくる咲音ちゃんを、いきなりギュッと抱き締めた。
きゃ、という悲鳴が聞こえたけど気にしない。


「じゃあ今度こそ、誕生日おめでとう。咲音ちゃん」
抱き締めてるから、耳元に囁く感じになった。すると咲音ちゃんはおずおずと私の背中に腕を回す。


「えへへ…ありがとう、ハクちゃん」









――――

もう咲音ちゃんも一緒に祝う!おめでとうっ、咲音ちゃん!

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あきゅろす。
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