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羨望と憧れ
(not家族設定)




私から歌と居場所を奪ったあの子が嫌い。
だけど、あの子の歌声は好き。




実力主義の歌の世界にいたとしても、私は自分自身にそれなりの実力はあると思っていた。緑の歌姫や元気な双子がデビューしてきた時だってファンはついてきてくれていたし。それはまぁ、ファン層が被らなかったのが最大の要因なのであって、同じく「お姉さん系」でデビューした桃色のあの子には幾分かファンを持っていかれた。
それに加え、聞き取りやすい声に流暢な英語。私には私にしかない魅力があるとは思っていても、あの子は急速にファンを増やしていった。





スタジオでのボイストレーニングを終えた後、嫌なことにルカとバッタリ遭遇してしまった。露骨に眉をひそめてしまう私に、ルカは少し苦笑い。楽譜を持っているのを見ると、どうやら新曲のレコーディングだったらしい。

そして、なぜだか分からないけど一緒に帰る事になっていた。






「……」

「……」
話したい事がないなら、誘わないで欲しかったんだけど……と、沈黙が苦手な私は思ってしまう。しかも誘った本人は私の前をさっさと歩いてしまってるし。


私が嫌味ついでに、ルカに聞こえるようにため息でもついてやろうかと大きく息を吸い込んだ瞬間、ルカは振り返った。


「メイコ先輩は、歌がお好きなんですね」

「…」

「たまに聞こえてくる歌声を聴いていると、そう感じます」

「……好きなだけじゃ、どうも出来ないわよ」
近頃、褒められることがなかった為に、つい「ありがとう」と言いそびれてしまう。


私の突き放すような言い方に何を思ったのか、ルカは苦笑いのまま訊ねてきた。

「……私のこと、お嫌いですか?」

「……」
さすが、帰国子女。思ったことは直球で聞いてくる。オブラートも何もない。
あまりの直球さに思わず黙ってしまう。

歌手としてのルカはライバルであるから、あまり好意的な印象はないけれど、ルカを個人として見ると……たぶん、好きなんだと思う。ルカの歌声(鼻歌とか無意識に口ずさんだりする歌とか)を聞くと、心が温かくなる。

けれど、好きか嫌いかと真っ直ぐに聞かれたら、好きよなんて言えるはずもなくて、私は答えないままルカを追い越し彼女の前を歩きだす。


「…メイコ先輩、」

「…先輩、はいらないわよ」

「……そうですか?」

「そうね」



歌声以外であなたに好きな場所を見付けられたら、好きって言おうかしら…。





――――

名無しさんからのリクエスト。

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