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似て非なるもの
昼食を終え、自室に戻るとハルトマンがゴミの山からお尻だけを出していた。
なんという格好だ……。昼食に行く前に起こしはしたが、結局現れなかったところから寝ているんだろうと予想していたが、いくらなんでも寝すぎじゃないか?しかも起こした時はベッドの上にいたのに現状はどうだ?頭をゴミ山に突っ込んでいる……。寝相が悪いにも程度というものがないのか、こいつは!


「起きろ!ハルトマン!もう昼も過ぎたぞ!!」
毎日同じ事を言っていてなんだか虚しくなってきた。どうせまた「あと90分」とか訳の分からん寝言とでも返してくるんだろ。
私はそう読んでいたが、返ってきたのは予想していなかった質問だった。


「あのさトゥルーデ」

「!?……お、起きてたのか?」
ハルトマンが身体を起こすとゴミ山が崩れていった。私の問いに、あーだのまぁだの曖昧な返事をしてゴミ山から取り出したらしい一冊の本を掲げた。

「なんだ、その本は」

「辞書」

「辞書?」
確かにハルトマンは意外にも読書はする方でこのゴミ山にもたくさんの本が埋もれているのは知っていたが、まさか辞書も持っていたとは。

「トゥルーデって物知り?」

「……さぁな。自分では知識もつけてるつもりだがどうだろうな」
満足のいく回答じゃなかったのか、ハルトマンはうーんと唸ってから、まぁいいやと立ち上がった。


「あのさ、愛と恋の違いってなんだと思う?」
埃をはたきながら唐突な質問。私は思わず「は?」ともらしてしまった。後からしまったと顔をしかめたが、ハルトマンはいつものように笑顔でこちらを見ているだけだ。


「あー……その、えらく哲学的な質問だな」

「そう?」
考えたこともないな、そんな違い。ましてや別物と感じたこともない。付き合いの長い私ですらハルトマンは何を考えているのか分からない事があるが、まさかいつもこんな哲学めいたことを考えているんじゃないだろうな?


「これにはさ、」
ハルトマンが先程の辞書を私に向かって放り投げてきた。こんな重いものを投げるな。落とさないようにしっかりと受けとめて、折り目のついたページを開いた。

愛は「そばにいたいと思う。心を惹かれる」
恋は「相手が好きで、いつも会いたい、いっしょにいたいと思う気持ち」

と、書かれていた。

「これに書いてある通りなんじゃないのか?」
私が辞書を閉じてハルトマンに声を掛けると、ハルトマンはやれやれといった風に首を振った。人を小馬鹿にしたような仕草で若干腹が立ったものの、なんとか心を落ち着ける。


「書いてある事が似てるんだよ」
そう言われ、もう一度読み返す。……確かにハルトマンの言う通りだ。要は「隣にいたい」という気持ちらしい。


「……明確な違いはないんじゃないか?」
この時代に、恋だの愛だので頭を抱えるのが馬鹿らしくなった私は投げ遣り気味に答えた。だが、ハルトマンは納得いかないようでまた小さく唸った。

正直、こんなハルトマンを珍しく思う。ハルトマンは細かいことにこだわらない性格であるが故に、大抵の事は何も気にせずなぁなぁで済ませてしまう。

「どうしてそんなに気になるんだ?」
私が呆れながら質問するとハルトマンはさぁと笑った。……ため息がでる。


「トゥルーデはどう思う?」

「さぁな。私は一緒だと思っているから違いなんか考えたこともない」

「じゃあ今考えてよ」
なんという無茶を言う奴だ……と思ったが私も私で、軽く流せばいい無茶を腕を組んで考えてしまう。ハルトマンがだらしなく緩みきった頬を隠そうともせずに私の様子を見ている。

「そうだな…」
そばにいたいと思うのが愛。いっしょにいたいと思うのが恋……か。
そばに、というのと一緒に、というのは何か違うんだろうか……。私の主観でしかないが「そばに」は隣、もしくは手の届く範囲を指していて「一緒に」はもう少し離れた……目の届く範囲ではないだろうか。だから片思いは恋なのかも知れない。


「恋は1人でも勝手に育つもので、愛は誰かと一緒に育てるもの……と言ったところじゃないか?」
どうだ?と顔を上げると、ハルトマンは驚いたように私を見ていた。


「……ど、どうした?ハルトマン」

「……トゥルーデ」
俯き、わなわなと肩を震わせるハルトマンに今度は私が内心驚いてしまった。覗き込もうとする、いきなりガバッと抱きつかれた。

「うわっ!?な、なんだ、ハルトマンっ?」
引き離そうと彼女の肩を掴むが、ふにゃふにゃと柔らかそうなハルトマンの笑顔が見えて躊躇ってしまう。


「えへへ…。……私、トゥルーデを愛してるよ」
好きだ好きだといつも言うくせに、今日に限っては「愛してる」…か。


「…私も、愛してるぞ。……エーリカ」
頭を撫でてやると、ハルトマンはルッキーニがシャーリーにするように私の胸に顔を埋めた。







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カールスラント語はどうかは知りませんが、N村家の辞書にはこう書いてました。
エーゲル幸せだとN村も幸せ。



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あきゅろす。
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