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一息ついて
ハルトマンとの夜間哨戒は(夜間哨戒に限らずだが)息つく暇もない…というか、アイツが喋り通しているから静かになることは、ほとんどない。うるさい程に感じていたハルトマンの他愛ない話も、有難かったのかもしれない……と思ってしまう。

そういう考えに至るのは私の感覚が麻痺してしまっているのかも知れないが、今日の僚機がペリーヌというのも少なからずあるだろう。


ブリタニアでの戦いが終わってガリアを解放してからというもの、ペリーヌはエイラやルッキーニの様な茶化す相手がいなければ非常に静かになったと思う。
実力に申し分はないし、規則にも従い上官を敬う。なにより真面目で、欠点を敢えて挙げるとするなら、少佐以外と接する時のツンツンした態度だが、オンオフを上手く切り替えているので戦闘や訓練ではそれが挙動に表れる事はほとんどない。固有魔法の事も考えると、僚機にはもってこいのタイプだ。……だが、こうも静かだと物足りなさを感じないわけでもない、とハルトマンに毒されつつある思考を苦笑いで掻き消した。


「どうかされました?大尉」
後方からでも私の苦笑が見えたのか、ペリーヌは遠慮がちに声を掛けてきた。真夜中の空はとても静かで、インカム無しでも声が聞き取れた。今夜は風もないみたいだ。


「いや、なんでもない」
くっと頬を引き締め、ペリーヌをちらりと見た。緊張でもしているのか、肩が上がっているように感じる。


「……大尉?」
今度は疑問を込めて私の名を呼ぶ。どうやら自分でも思った以上にペリーヌを見ていたみたいだ。


「ペリーヌは…」

「はい」

「緊張しているのか?」
停止してペリーヌが私に並ぶのを待ってから尋ねると、彼女は思い切り顔をしかめた。が、すぐに私から視線を外す。


「ペリーヌ?」

「緊張してるというわけではなく…バルクホルン大尉は規律規則に厳しい方ですから」

「……」
ペリーヌの言葉に、驚いた。一番機に合わせる事が出来ると思ってはいたが、こういった初歩の初歩まで合わせられるとは。もし私がハルトマンのように喋るタイプなら、それに合わせていたんだろうか。



「……あの、バルクホルン大尉?」
感心し、思わず黙り込んでしまった私を心配するように顔を覗き込んできたペリーヌ。すまない、と謝罪を口にして、ふと笑みがこぼれた。



「ペリーヌ。何か話をしないか?」

「はい?」

「話題は…そうだな、なんでもいい」

「ですが、今は任務中…」

「多少話していた程度で遅れを取るものじゃないだろう」
どうしたのか、私らしくない……と自分でも分かる。それでもペリーヌと話をしたくなった。
こうも頑な姿はまるでいつかの私のようで、ハルトマンとは違う心配がこみあげてくる。ペリーヌは私の様子に戸惑いを浮かべながら、何か言葉を探している感じだった。



「……あの、妹さんはお元気ですか?」

「あぁ。だいぶ体調も良くなってきた所だ」

「そうですか…」
安堵したような柔らかな笑みを浮かべるペリーヌ。彼女の境遇を思えば、愛する妹が病床から回復したというのは比べ物にならないぐらい幸せなのだろう。
決して弱音を吐かないペリーヌに、胸を締め付けられた気がした。なにか言葉を掛けようと彼女の顔を見ると、ペリーヌは笑顔だった。哀しさを感じさせない、心底嬉しそうな笑顔。



……どうして、笑える?


私はクリスの意識が戻らなくなっただけでも笑う余裕を無くしたというのに。
どうしてお前は、早くに天涯孤独となったお前は他人の家族の体調云々で…そこまで笑えるんだ?



「……強いな、ペリーヌは」
感じた事を率直に口にすると、ペリーヌは遠慮がちに頭を振った。こんな謙虚な態度を見ると丸くなったと、やっぱり思う。


「バルクホルン大尉にそう言って頂けると、励みになりますわ」

「戦いも、だが……今のは精神面での意味合いの方が強いんだが」
精神面?とシャルトリューの耳を垂れさせ首を傾げるペリーヌ。私は視線を前方に戻して言葉を続けた。


「私は、ペリーヌのように笑えそうにない」

「…笑う?」

「もしクリスを失えば、きっともう笑えなくなると思うんだ」
並んで飛ぶペリーヌが複雑そうな顔をしたのが見えた。



「だから、私はペリーヌを強いと思う」
嫌な空気を吹き飛ばすように、少し大きな声で話す。隣の少女は銃身を握る手に力を込めたのかカチリと音が響いた。


「…それでしたら、尚更わたくしは強くなんてありません」

「……」

「わたくしは、虚勢を張ってるだけです。…いつ切れるか分からない細い糸を必死に張り詰めて、立派なウィッチになろうと。……ガリアの、クロステルマンの名に恥じないように…」
祖国の名を口にした時、声が震えているように聞こえた。話の腰を折らないように私は小さく頷いた。



「虚勢を張って、自分を奮い立たせているだけで……強くなんて…」
今、ペリーヌの「糸」が切れそうになっているのかも知れない。……常に張り続けていると切れそうになるのも仕方ないのか。
気のせいかもしれないが、今にも泣き出してしまいそうなペリーヌを見て、私の腕が勝手に動いた。


「…た、大尉?」
頭を撫でられ、されるがままのペリーヌ。初めてシャルトリューの耳を触ったが触り心地の良い毛並みだ。


「糸を張り詰めるのも大事かも知れないが、少しは肩の力を抜くといい」
こんな事を私が言うのも変だが。


「ペリーヌの気持ちを聞いた私の前なら、糸を緩めてみたらどうだ?」

「…え?」

「それに私とペリーヌはどこか似た者同士だ。ミーナや少佐、シャーリーよりは共感できるかもしれない」

「大尉…」
頼られたいのではなく、リラックスしてほしい。ただそう思って提案した。ペリーヌの性格がもし私と似ているなら、年下に甘える訳にはいかないと構えるだろうし、かと言ってミーナや少佐相手に弱音を吐くのは情けなく思われるかも知れない。シャーリーやハルトマンなら話を聞いてくれるだろうが……何故だかあいつらに素直に甘えるのは癪だ。



「私の前だけは力を抜くんだ。その代わり、その間は私がペリーヌの分まで気を引き締める」

「それだと大尉に負担が」
反論しようとするペリーヌの言葉を遮るように、彼女の華奢な身体を抱き締めた。こんなにも小さな身体に、ガリア国民の期待や願いを一身に受けとめていたのかと思うと胸が熱くなる。


「……上官、命令だ。もう無茶をするんじゃない」
頭に描くのは、先日の橋を狙ったネウロイに激昂し単身突撃を仕掛けるペリーヌ。思い当たる節があるのか、彼女は私の胸に頭を乗せてくぐもった声で「……了解しました」と返した。








――――

もっと明るい話を書くつもりだったんですが、日を開けると段々わけわからなくなってきましたw
お姉ちゃんは人に対して妥当というか正当な評価を下すと思うんですが、ペリーヌを誉めすぎた感があるのは書いてる人間が生粋のペリーヌ信者だからです、サーセンw



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