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包帯が足りそうにない
(キルミー)



スキップしながら教室に入ってきたやすなは一直線にソーニャの元へと向かった。ソーニャはにわかに眉をひそめる。


「ソーニャちゃん、ソーニャちゃん」

「……」

「お願いがあるんだけどー」

「嫌だ」
やすながいる方を見ないようにして、視線を窓の外へ向ける。早く休み時間は終わらないだろうか、と考えて腕を組む。効かないだろうとは分かっていながらも、話し掛けるなオーラを惜しみなく出しながら。


「私まだ何も言ってないのに!」
机にしがみついて声を張り上げるやすなに、やはり効かなかったか、とため息がもれる。


「断る」

「ちょ……あの、話聞いてよ」
やすなの言葉を無視しながら黙々と次の授業の準備を始める。そんなソーニャの机の周りをうろうろ歩くやすなは、どうにか話を聞いてもらおうとソーニャの制服の袖を引っ張った。


「!?」

「話を聞いてよ、ソーニャちゃん」

「おいっ、離せ!破けるだろっ」
遠慮も無しに力一杯に引っ張ってくるやすなに、さすがのソーニャも焦りを見せる。ソーニャの変化にやすなはニヤリと笑う。


「ソーニャちゃんが聞いてくれれば引っ張らないよ!」

「お前っ……!」
ソーニャは握り拳を作るが、変わらず「ドヤ顔」のやすなを見て、ため息と同時に拳を解いた。


「……聞くだけだからな」

「お、今日は素直だね。やっとソーニャちゃんも私と話したくなったたたたた!痛いよ!!」
制服を引っ張るのを止めなかった事と、都合の良い勘違いにイラッとしたソーニャはやすなの腕を取りそのまま腕を逆の方向に曲げた。

「お前、自分で言った事を忘れたのか?話を聞けば引っ張らないって言ったんだぞ」

「お、覚えてますごめんなさい」
逆方向に曲げられた腕をさするやすなを、ため息混じりに見つめる。


「さっさと終わらせろよ」

「それはソーニャちゃん次第だけどね」
不敵な笑みを浮かべるやすな。ソーニャはイラっとしたものの話の腰を折らないように黙っていた。


「やすなちゃん大好きって言ってほしいの」

「……」

「……あれ?ソーニャちゃん?」

「聞くだけって言っただろ」
ひどい!とやすなは机をバンと叩くが、ソーニャにはまったく効果がない。ぐぬぬ、と唸った瞬間、始業を告げるチャイムが鳴り響いて、やすなは鼻を鳴らしながら席に着いた。






「ソーニャちゃん!」

「言わないからな」
教師が教室を出ていったと同時にやすなはソーニャの机に噛り付いた。しかし比喩的な意味はもちろん、物理的な意味でも一蹴される。


「じゃあ、ソーニャちゃんが言ってくれたらちょっかい出すのやめるよっ」

何がどう「じゃあ」なのかは理解出来なかったが、たった一言言うだけでまとわりつかれる事はなくなるのか、とソーニャは考えて頷く。


(それぐらいで済むなら……)
やすなの目を見て口を開きかけた時、彼女が後ろ手に隠したものが目に入る。


「……おい」

「なっなに?」

「また無駄遣いして買ったのか、それ」

「無駄遣いじゃないよ!お父さんのをちょっと借りただけだもん!」
見てよ!と自慢する勢いでソーニャに見せびらかしたのはICレコーダー。出した瞬間にやすなが殴られたのは言うまでもない。



「絶対に言わないぞ」

「……うぅ」
殴られた左頬を押さえながらも、やすなはじーっとソーニャを見つめた。


「……なんだよ」

「言ってくれるまで、邪魔ばっかりするよ?」

「邪魔してる自覚あったのか、お前。……ま、してきても軽くあしらうだけだ」

ふん、と笑って見せると、やすなはニヤニヤし始めた。


「つまり、ソーニャちゃんは私に構ってほしい、と……」

「……は?」
どうしてそうなる、と問い詰めようとするが、うっとりしたような表情のやすなを見て口を閉じてしまう。やすなは言葉を続ける。


「だから言わないんだよね?ようやくわかったよ、ソーニャちゃんの気持ち」
ね!と下手くそなウィンクを寄越したやすなに今度は真っ正面から拳をねじ込んでやった。





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あきゅろす。
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