おぶってられて
(PB2012)
「痛くないか?」
「……大丈夫、ですわ」
「おんぶされながら何が、大丈夫ですわ、だよ」
シャーロットが茶化すように笑うと、彼女におぶられたペリーヌは「下ろしてください!」と背中で暴れた。だが、シャーロットはペリーヌの脚をしっかりと掴んでいて下ろす気配はなく、それどころかハハッと軽く笑い流した。
「なんだよ、おんぶがいいって言ったのはそっちだろー」
「お、お姫様抱っこかおんぶ、どっちがいいって聞いたんじゃないですか……!」
ペリーヌの弁解にシャーロットはそうだっけ?とおどけて返す。ふらふらと言葉を躱すシャーロットに対してペリーヌはもぅ、と唇を尖らせて観念したように身体の力を抜いて彼女に身を委ねた。
ペリーヌの怪我の原因は彼女らしい理由で出来たものだ。故にシャーロットもその事を咎めることはなく、聞いた時には笑みが零れる程だった。
簡単な話が、小さな子供が困っていると見過ごすはずがないペリーヌは子供の手助けをした時に不覚にも転んでしまい足を挫いただけである。
「怪我させないようにって思ったんだろ?」
シャーロットが少し上を向きながら尋ねると、頭がこつんと当たったペリーヌは唇の先を尖らせて「……まぁ」と返した。シャーロットの肩越しに自身の素足を見下ろすが、風に晒される素足はストッキングを穿いてないだけなのに何故だか心許なく、すり傷がじんわりと痛む。
「綺麗な脚してんのに勿体ないね」
「はい?」
突然の誉め言葉にペリーヌは間抜けな声を出してしまう。シャーロットは左腕にぐっと力を入れて、離した右手でペリーヌの脚をすっと撫でた。
「ひゃっ!?」
「あ、痛かった?」
ズレた心配をするシャーロットの背中をつねるペリーヌの顔は真っ赤だ。
「きゅ、急になんですのっ?!」
「いや別に。ただ、こうしてペリーヌの素足見る事は少ないからね」
「だ、だからって……」
「綺麗な脚にこんな傷つけちゃってさ」
ペリーヌの制止には耳を傾けずに、じわりと血が滲んでいる傷口を指先でなぞる。痛みをこらえるペリーヌは手に力を込めてシャーロットのジャケットをぎゅっと握り締めた。
「……ごめんなさい」
「別に、謝る事じゃないさ。……傷、ちゃんと消えればいいけど」
返す言葉が見つからないペリーヌは視線を泳がせてから、シャーロットの肩口に顔をうずめた。血のついた人差し指をぺろりと舐めたシャーロットは苦笑いして、自身の顔のすぐ横にある頭を撫でてやった。
「とにかく、基地に戻ったら手当てしてあげようか」
「……シャーリーさんが?」
くぐもった声にシャーロットは頷く。
「いくら医者と言っても、風呂や寝る時以外でペリーヌの素足見せるのは嫌だしね」
それは恋人の特権にしておきたいし、といつもより小さな歩幅で歩くシャーロットはからからと笑った。
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