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Believe in future
(PB2012)




ペリーヌの白い指が、真っ白な紙を折る。
端を合わせて、ゆるく曲線を作った箇所を爪でなぞる。同じような動作を何度か繰り返して出来上がった一羽の鳥を、満足げな瞳で見つめた。


「ほぅ、さすがペリーヌだな」
ペリーヌの隣で実際に折り鶴を折って見せていた美緒が感心したように笑うと、少女は薄ら頬を染めてはにかむ。美緒の手元にある鳥は尻尾や翼が皺だらけのようにも見えるが、それに気付いていないペリーヌは「少佐のご指導のお陰ですわ」と謙遜し、美緒は苦笑いを返すしかなかった。



消灯の見回りをしていた美緒が、寝付けないと一人で食堂にいたペリーヌの相手をしようと持ってきたのは正方形の白い紙だった。扶桑の伝統的な遊びでもある「折り紙」はいささか地味なものにも見えたが、折り方1つで次々に姿を変えていく様子は、芸術の都パリを擁するガリア出身のペリーヌも感嘆の声を上げるほどであった。特に「折り鶴」の凛とした美しい出来上がりには、彼女が自身で折ったものでも見惚れるほどた。


「折るスピードも早いな」

「そ、そうでしょうか……」

「あぁ。その早さなら千羽鶴も近い内に出来るかも知れないな」
自分が折った鶴をテーブルの端に追いやり、なるべく視界に入らないようにする。美緒が話す間もペリーヌの手は止まらずに、既に十数羽の鶴がテーブルの上に整列していた。


「センバヅル、ですか?」
それは一体、と続けたペリーヌに美緒はひとつ頷いてから扶桑に伝わる千羽鶴の話をした。

「この折り鶴を千羽集めた、一種のお守りみたいなものでな。多くは病人の回復を祈ったりしたものなんだ」

「お守り……」
ペリーヌは美緒の言葉を復唱し、鶴を折る手を止めた。美緒の話は続く。


「他にも長寿のシンボルであったり、健康を願ったり……」
美緒は顎に手をやり、自分の記憶を辿るように天井を見上げた。ペリーヌはそんな美緒をじっと見つめた。


「まぁ、そういった類のお守りだな」

「長寿のお守りですか」

「そうだ」
話が一区切りついたところで美緒はもう一度鶴を折り始めた。ペリーヌは何かを考えるように視線を真っ白な紙に移す。美緒が折る鶴にも目をやり、幾度か視線を往復させた後、再び鶴を折りはじめてから口を開いた。


「わたくし、センバヅルを折ってみます」

「うん?……そうか」
出来上がった鶴を見て、やはり顔をしかめる美緒。自分は思っている以上に不器用なのかも知れない。


「そして、完成したセンバヅルを少佐に……」

「私に?」

「はい。……わたくし、出来るならこの空を少佐とずっと飛んでいたいのです」

「……ペリーヌ」
ペリーヌは恥ずかしそうに頬を染め、尾がピンと伸びた鶴を美緒に見せた。


「センバヅルに想いと願いを込めて……」
美緒は差し出された鶴を掌に乗せる。真面目な性格のペリーヌらしい鶴だった。


「今はまだ、これだけしか居ませんけれど、必ず千羽折りますわ」

「……」

「少佐が、ずっと空を飛べるように」
話してる間もずっと鶴を折るペリーヌを見ながら、美緒は照れ臭そうに頬を掻いた。


「では、私も協力しよう」
端に追いやった鶴を整列した鶴の横に並べ、美緒はハッキリと声にした。


「私も、千羽鶴に想いと願いを込めるとしようか」

「少佐も?」

「あぁ。私はペリーヌの健康を願い、ペリーヌは私の健康を願ってくれる。互いに願えば、叶いやすくもなるだろう」
ペリーヌの目を見つめて言うと、彼女の顔をみるみる内に真っ赤になっていく。その様子がおかしくて美緒は優しく微笑んだ。


「私も、ペリーヌとこの空をずっと飛んでいたいさ……」





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あきゅろす。
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