怪盗あらわる!?
ご
「何よあれ!?“話すことは何もないわ”ですって!」
あの後薔薇の館に戻り、ことの次第をお姉さまたちに説明した。
説明したことで怒りがこみ上げてきたのか、由乃さんは悪態をつく。
「由乃、落ち着きなよ」
令さまが諫めるが、由乃さんの怒りは収まらない。
これは収集がつかないと悟ったのか、はたまたいつものこと、と聞き流しているのか(おそらく後者だ)、お姉さまは話を進める。
「式部マモル。彼女が万研究同好会の部長だったの」
「知っているんですか?お姉さま」
「知っているとは言っても同じクラスというだけよ。話したことなんてほとんどないわ」
令さまが後に続く。
「彼女相手なら一筋縄ではいかないかもね」
「式部マモルさまってどんな人なんですか?」
乃梨子ちゃんの問いに、難しい顔をして考え込んでいた三年生二人は顔を見合わせる。
「きれい、怒らせると怖い。色々あるけど変わってる人ってことで有名なんだ」
「敵に回すと厄介だ、って聞いたわ」
となると、慎重に事を運ばなければ。
そんなに怖い人には見えなかったが、人は見かけによらないらしい。
由乃さんがいい例だ。
「いっそ賄賂でも送るとか?」
と、これは由乃さんの提案。
「でも何を?」
「令ちゃんの手作りお菓子とか?」
「クッキー…」
祐巳がぼそっと呟く。
祐巳に視線が集中する。
「“紅茶にはクッキーよね”って加藤さんが」
「加藤さんって?」
「聖さまの大学のご友人です。昨日一緒にいらしてて」
「そう。それで、その方がそう言ってたのね」
お姉さまに「はい」と、頷いて答えた。
「試しに明日持って行ってみようか」
「他に方法も思いつかないのだから仕方ないわね」
「クッキーはあたしが焼いて来るよ」
「任せたわ」
「じゃぁ、決戦は明日ってことで。解散!」
令さまの号令で、その日はお開きになった。
そして祐巳の中で一つの謎が解決すると同時に、新たに小さな謎が残った。
“なぜ、加藤さんはあんなことを?”
まるで、こうなることを予想していたかのように。。。
この謎はしばらく解けそうになかった。
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