「よそよそしいのはもう飽きちゃったしね」

「…そこは同意だな」

「だからタオル投げるのなしだよ陣」

 お前も大概入れ込んでるなと肩を竦め、萎縮している茶髪を眺めた。あいつは多分、自分が他人を観察しているように、他人から観察されている自覚はないんだろう。

 井原市 歩という男は確かに弱くて。弱者としか言い様のない人間なのに、全てを飄々と己の足場にみなしているようで。
 その様は、風に流される浮雲を装った霞のような。妙に掴み所なく、迷いもせず独りの道を行く男だと、そう思う。

 強いのか弱いのか、判断に困る何かを備えている気がするのは確かで。だから自分達が一番解り易い形の強さで線引きして、同じ線上に立ってから、それを見極められると良い。総司も恐らくそんな考えだろうか。

 結局、アユが見ている物と同じ物を見てみたいだけなんだろう。いつまでも他人面されるのも癪だなと思う程には、俺達があいつを気に入ったから。弟分だから。

「あははははは!アユちゃん顔だけミミックにレベルアップしてどーすんの!」

「いや…何も考えてねぇ気もするな…」




 そんな水面下の思惑など露知らず。悪魔に儀式場へ引き摺り出される生け贄みたいな心境で、諸手を上げて叫んだオレを、一生はキョトン顔で首を傾げ、このちゃんはじっと考え込む素振りで見詰めた。
 因みに兄貴はおら気合いだ気合い、とオレの背中を叩いている。マジ痛いです正直泣きたいですチキショー!

「二人の喧嘩の仕方をアユちゃんに叩き込んでやってね」

「頼んだぞ。行って来いアユ、お前も男でヤンキーなら喧嘩ぐれぇ出来ねーとな」

「…っっ!」

 オレヤンキー被りのなんちゃってヤンキー擬きだから無理なんだぜ!! 絶体絶命風前の灯火、井原市 歩中庭で死す。悲惨なテロップが脳裏を過った瞬間、二人が口を開いた。

「あー…なんや知らんけど、アユっぺに喧嘩教えたらなあかんのやな?よしアユっぺ、いっちょかかって来いや」

「いっせー馬鹿野郎ぉぉぉ!!」

 デュワ!とか構えんで良いこの野郎!オレはお前にワンパンで秒殺される自信しかないんだぜ。雑魚のひ弱さを舐めんなよ!先にドクター配備お願いしまああああああす!

「…歩こっち来い、俺の味方するなら一生からは守ってやる」

「このちゃあああああん!オレこのちゃんに着いて行くんだぜーハッハー!」

「よし、これで1.3対1だな」

「オレ0.3かよ!? 確かにその通りなんだぜ!!」

「あっクソーやられたわ!アユっぺこっち来ぃや!守ったるで!」

「同じ手パクった!! つーかどうせお前も0.3扱いすんだろ!? 見えてんだぜオチが!」

 ギャン吠えで突っ込むオレに、何故か一生は誇らしげな笑みを刷いて、自信あり気に親指を立てた。きっとオレの人生の教科書、漫画であればキラッと何かが煌めいただろう。そんな顔で寄越されたのは、いとも容易く吐き出されるえげつない言葉で。

「わいは端数切り捨てる主義や!」

「それよーするにゼロカウントだろうがあああぁ!!」

「隙あり」

 ゴス!!

 一欠片の悪意もない“お前無価値”発言に憤り、一生に詰め寄っていたオレの背後から、このちゃんが蹴りを繰り出した。
 モロに腹に決まったそれに、身体をくの字に折る一生。不意討ち以外の何物でもない一撃、オレも思わずこのちゃんを非難めいた眼差しで見てしまう。

「セコくね!? うわっこのちゃんそれ卑怯!」

「良くやった歩。一生のノリ体質を上手く突いた囮だった」

「なんかオレ主導みたくなっちゃってるんだぜ!?」

「くっ…やりおるアユっぺ…恐ろしい子…!」

「あはははははは!! アユちゃんやっるぅー!」

「ほうまさかアユにあんな使い道があったとは…上手いなこの」

「こんな使い道要らないっすよ兄貴!」

 バシバシと手を叩きながら笑い転げる村雲先輩と、なんか冷静にこのちゃんを褒めている兄貴。オレはただ全力で怒声を張った。

「あんたら実はオレで遊んでるだけだろチキショー!!」

『うん』

 そこで全員ハモらなくても大いに良かったんだぜチキショー!!










 公立高校最低偏差値を誇る馬鹿ばっかりのヤンキー高校矢紀浜…
 ここには喧嘩以外能のないカラフル頭の不良生徒ばかりが集っている。

 しかし、その中に紛れた頭の悪さだけが共通項の一羽のアヒルの子───
 もとい、猫被りならぬヤンキー被りが今日も元気に三下根性と下っ端魂とヨイショと突っ込みを装備して、なんちゃってヤンキー生活を綱渡りしている。












あとがき


 これまでで一番テンション高い話になりました。書き易くはあったかな(笑)
 歩は保身に走っても本当には群れないタイプなんです。だから兄貴分と全く同じ事をしたり全く同じ物を望んだりはしない、憧れ故の真似っ子みたいなのはしない、本質的には独立独歩な冷めたキャラです。
 例えクズでも自分は自分、クズの中でも井原市 歩という名のクズとして生き抜いてやんよと一笑するくらいには、自己が出来た駄目っ子(笑)

 グリコの元ネタは蟲と眼球とテディベアと言うラノベです。字が間違ってるかも知れないです(´・ω・`)
 このちゃんや一生の設定など気付いた人は気付いたでしょうがこのサイトはこういう作品を跨いだ横糸、縦糸の世界観を構築して行こうと思うのでのんびり見守ったってつかぁさい(・∀・)ノ






あきゅろす。
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