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「オレのせいだ…オレが…っ」

「ケイ」

「ごめん、アキ…アキが」

「…こらケイこのあほんだら、俺がいつお前のせいだこの野郎って言ったよ」

「、」

「お前のせいだと俺に恨まれりゃ、お前は楽だろうよ。ケイ…でもなぁおい、ふざけんなよ。恨み辛みってのはなあ、抱えてく方がよっぽどしんどいんだよ。お前俺にそんなもん押し付けるつもりか?嫌がらせか?喧嘩売ってんのか?びた一文負けずに買ってやら」

「え、うわ、すんませんしないです。アキと喧嘩は無理です。オレ勝った試しない」

 あたぼーよ、と柄悪く吐き捨てた彰久に、恵介は縮こまる。彰久には勝てない。生まれた時から刷り込まれているかのように、恵介は敗北一路の戦歴なのだ。
 彰久には勝てない、死んだ後でもやっぱ勝てない…とぶつぶつ言い出す恵介に鼻を鳴らして、彰久は尊大に腕を組む。

「お前なんか恨むだけ無駄なんだよ」

「ヒデェ…」

「だってお前は悔いるだろう。俺が恨もうが許そうが、お前はお前を許せないで、生涯悔やんでのたうち回って苦しむんだろう、だから俺が恨むだけ無駄なんだよ」

 お見通しだと言わんばかりに断じた彰久に、恵介の壊れた涙腺がまた、新にぼろぼろと溢れ返る。本当にもう、彰久には敵わない。

「ごめん…」

「それにな」

 触れられなかった掌を翳して、彰久は殊更無表情に、ぽつりと呟いた。

「もしお前を恨むにしたって、せめてよぉ…せめてお前、生き残ってなきゃ、駄目だろ」

「、」

 がつんと頭を殴られたような衝撃だった。彰久の眦から音もなく滑り落ちたのは、間違いなく…涙だったから。

「…何生き残りそびれてんだよ、馬鹿」

「ごめ…ごめん、オレ…助かれなかっ……た…!」

「んっとによぉ、この馬鹿は、何ヘマしてんだ…助かれよ……っこのあほんだら!」

「…ごめんな…」

 あの日の姿のまま、しかしうっすら透明感を帯びて景色を透かす恵介を睨み、彰久はひたすらな悪態を吐いた。天に、己に、吐き捨てるしか出来なかった。








 背後の違和感に気付いた恵介が見たのは、押し寄せる高波と流木に絡まった釣糸の先。その針に引っ掛かった己の救命胴衣だった。

「!」

 咄嗟に萌衣を投げ出したのは反射で。流木に頭をぶつけでもしたらと危惧した一瞬の結果だった。波に飲まれた中、激痛を感じたのは一度なのか二度なのか。知覚すら出来ぬまま恵介はひたすらに、一つの命綱もない彰久を救わねばと、その一心で。

 以降の次第は、今となっては最早思い出せない───────
 そして次に目の当たりにしたのが、あの通夜だったのだ。二つ並んだ遺影が答えだ。






あきゅろす。
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