3



「じゃあ私の方が先輩なんだねぇ。ならそんな物言いは失礼だと思うなうん、先輩に対して…ねぇ、そんなちいちゃい子に言うみたいなのは失礼だと思うなー」

「ふにー…にゃっ」

 うりうり、うりうりうり。

 野良にゃんこさんのほっぺたに指を捩じ込みながら笑顔で声をかけてあげる。うん本当はね、葉っぱ少年くんのほっぺたにうりうりしてあげたかったんだけど、喧嘩上等かヤンキーかも知れないのにそれは流石に無謀かなぁって…


───────頭二つ分の身長差という恐怖に屈して保身に走りました。こう言う時は最後にペロペロ?って言うんだっけしーちゃん。

「…ああ確かに」

 ふ、と葉っぱ少年くんは何かを思い至ったような表情をして此方を見るとのそりと半身退いた。

「お世話んなりました」

 そしてぺこりというには深々と頭を下げた彼に私感動。良い子!この子良い子!本当は凄く真面目な子なんじゃないかなっ!?
 だって土下座である、高校生にもなった男の子が女子に土下座でお礼が出来るなんて早々ない。いや単なるその場のノリとかかも知れないけどね。

「どういたしまして」

 礼には礼で返す日本人なので、私もノリで土下座である。ちゃんと三つ指だよ?

「えーと、それ、三宅…なんて読むのか解らないな…ちい?ちさ?」

「名前?ああ、これはささだよ、三宅 小」

 小、確かに名前としては珍しい部類だろう響きは、実は人名漢字として立派に辞書にも収録されている読み方なんだけど、まあ、そうないよね。

「ささ、ふぅん…似合うな」

「名は体を顕すって言ってるよね今。絶対思ってるよね?」

「………………………」

 はい無言でそっぽ向いたー、絶対思ったー。言うと思ったー、言われると思ったー!

「学校ではちぃちゃんって呼ぶ人多いからきっと皆そう思うんだろうね、知ってた」

「…悪い意味じゃ、ない」

 そうだろうね、良くも悪くも意味なんてない、事実を前にした感想に過ぎないんだろうなって解ってるよ?ただそれを数えきれないくらい向けられ続ける私には、その無意味な言葉や態度は最早食傷気味の煩わしさしかもたらさないだけなんだけどね。生まれついた物だから仕方ない事なんだろうね、葉っぱ少年くんに責任はないしね。

「きっとその名前が似合うのもあんたくらいだと思う。良いと思う…似合わない名前付けられるよりずっと」

「…えっと、別にそんなに怒ってた訳じゃないけど…ありがとうね」

 私の気分を害したのだと気にしたのか真剣な顔をしてくれる彼に苦笑を返して、私はゆるりと頭を振った。本当に真面目な良い子のようですしーちゃん。あ、そう言えば私ヤンキーに土下座されちゃったよ凄い!

「…小って呼ぶ」

「うん?」

「良い名前だから呼んだ方が良いと思った。ササ、小先輩の方が良いか?」

「いやいやいや、さ行は続くと呼び難いと思うなぁ」

「突っ込み所はそこか……じゃあ良いよな小で、見ず知らずの俺を助けてくれてありがとう。いつか礼をさせて欲しい、また此処で会えるか?」

「う、うううううぅ………うん、此処でなら会うかも知れないね。野良にゃんこさんがいる間は」

 助けたと言うか、投げ飛ばす気持ちでひっくり返しただけですとは言えなかった。そんな私にお礼を受け取る資格はないと思うなぁ、でも意外と律儀らしい葉っぱ少年くんは私の事を行き倒れた自分を介抱してくれた恩人のように思ってる以上、無下に断ったりしたら逆に失礼かも知れない。そんな葛藤を滲ませつつ頷いた私に、彼はいたく満足気に笑って目を細めた。

───────あれイケメン?いや可愛いこの子。




←[戻る]

3/7ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!