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 禁色を纏う事を許されし一部とはつまり鬼伯、鬼の王とその血縁に当たる者だ。焔爾の父親緋耀は鬼伯閻魔王の兄弟であり、焔爾は閻魔王の甥に当たる。

「禁色の宝飾品を身に着けて良い者を挙げてみろ」

「はぁ!? それは…鬼伯の縁者、その伴侶、縁者に身内として認められたりした…」

「そうだ。身内の枠組みを広く説明してみろ」

「…長く功を立て尽くした家臣や家の益になりそうな有能な者を縁組して家人とする…か」

 首肯して彼はそれで良いだろうと笑う。六花は更に首を傾ぐしかない。生まれ損ないには結局関係のない話ではないか。

「お前は長く俺の下で小間使いに勤しんで来ただろう、まぁ内助の功として労ってやらん事もない」

「な、おま…なんだそれは…」

 唖然とする六花に心底愉快そうに笑みを浮かべ、焔爾は膝を打つ。

「おお、良い間抜け面だ生まれ損ない」

 この愉快犯が…!

 どれだけ回りくどい悪ふざけか嫌がらせなのかと戦慄きながらも、美しく煌めく石を打ち捨てる事が出来なかった。
 その感情は喜びなんかではない、ただの貧乏性。勿体ないだけだ、絶対。

「きっとお前この先もれなく生まれ損ないのくせに俺に取り入って誑かしたと後ろ指差されるだろうよ。はたまたとんだ女狐か名器かと噂が飛び交うか…見物だな」

 私の立場が危ぶまれる、その状況を笑いたいが為だけに用意したのかこのろくでなしが!

「こん、の野郎…っ…!」

 くつくつと確信的に嗤う焔爾に殺意が沸く、事実我が身に振りかかるだろう好奇の目諸々を思えば胃が痛む。頭は既に痛い。

 畜生ぶん殴る、絶対にだ。そう心に決めて睨み付ければ彼は一層笑みを深めた。此方は全く面白くなどない。その心境全てを鼻で笑って、世にも愉しそうに彼は言うのだ。

「生意気な面構えだな生まれ損ない、お前も楽しくて仕方ないか?あん?」
          はらわた
「…ああお前の妹君に腸引き摺り出されそうだと思うと笑えて来る。私はもう二度と屋敷から出ない、部屋に引きこもり香でも焚いて静かに余生を過ごすからな」

 堂々と引きこもり宣言をかまして腰を上げ、ガンと鳴る程に鎧戸を開けばそこは床の間だ。廊下一つ隔てた先に籠城すべき自室がある。引きこもるなら今だ、そんな勢いに駆られていた。

 解り易く一言で表現するならば、やってらんない、そんな心境だったのだ。しかし焔爾は六花の憤慨に頓着などせず、あっけらかんとした様相で彼女の背中に言い放つ。

「おい………… 立ったついでに酒持って来い」

「知 る か 馬 鹿 が!」

 まさか閻魔様でも思うまい、くわりと歯を剥いて家主に吼えたその機を衒ったように反対の襖が開かれて、件の妹君が御自らお出でなさるとは。

「兄様!」

「っ!?」

 大仰に肩が跳ねたのは致し方なかった。鈴を転がしたような愛らしい声に嬉々として呼ばれた焔爾は意外そうな迷惑そうな、顰め面で視線を流す。
  しゅら
「…朱羅」

「お加減は如何ですの兄様、お体に障るやもと思い今までお見舞いもせずにいた私をどうぞ不義理な妹と責めないで下さいまし。先日のご帰還の際も私お出迎えも出来ずに…」

「喧しいな相変わらず…用がないなら帰れ面倒臭い、生憎俺は五体満足だ残念だったな帰れ面倒臭い」

 ああああぁもう、何故厄介事は次から次へと呼びもしてないのに飛び込んで来るのか。帰れ云々を何故二度繰り返したんだお前は、どれだけ帰したいんだ、いや是非ともお帰り頂きたいもう一度言っておけ焔爾。

 引き攣った表情で息を殺しながら、六花は吐き出したい溜め息をひたすらに飲み込む。下手に朱羅の視界に入ろう物ならとんでもないとばっちりが来る事請け合いだ。
 六花はこの末の妹君がすこぶる苦手で、出来れば相対したくなかった。




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あきゅろす。
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