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ひとく
世間的には秘匿した方が良いと思われる珍品や、世に出さぬが相応の曰く品まで眠る半井家にはそれらを守り、またそれらから人々を守る為の結界が張られている。
それが失われるのは外から恐るべき力で破壊されるか、内部で常に結界を支える柱がその力を絶やすかだ。どちらにしても緊急事態だが、今回は外から強引に侵入されたかららしい。いやもしかしたら…
───と、些か血色の悪い最の様子を鑑み稀然は冷静に、考え得る限りで思索を巡らせる。
「鬼が姿を消して久しくこの世は精神性を軽んじ万物への畏敬さえ失い、時代を移ろう度異能の力は廃れて来た…今の世にも鬼に対抗し得る高き霊性を宿した家は少ないじゃろ。鬼が狙いを付けたのも道理」
痛めたのか手首を擦りながら苦笑と諦めの混じった声を振り絞る最、荒れた室内を片す傍ら、神夜の相槌が折々差し挟まれる。
「でも返り討ちにしたんでしょ?案外即行逃げ帰ってるかもじゃーん…っていうか鬼ってどんなんだった婆ちゃん?」
「お前ぐらいの年の娘と男が来おったわ。黒刀が飛んで行ったのを気にしたのか、わしの息の根を止めんかった。男の方はかなり口が悪かったの」
ふん、と吐き捨てる最の目は完璧に坐っていた。何を言い合ったのかなどと地雷を踏みに行く真似はせず、稀然は懸念を口にした。
「ちょっと待て黒刀の後を尾けてたならもう、俺達もそいつらに目を付けられたって事か」
「まあそうなるよねー」
「ねぇ…って軽いなおい、それなりに深刻な事態だぞ神夜」
「ですよねー?にしたってどーやって家を調べたんだ?てかこっちに来た鬼がその二人だけとは限らないし」
落下した掛軸をかけ直しながら神夜は、遠くを見るように視線を中空に泳がせている。ふざけた言動が多いだけで決して愚鈍ではない孫に最も低く答えた。
「詳しい事は知らんが…何かしら探査に長けた力か術を持っていたのだろうなぁ…じゃが、あの二人以外にも大挙して来ているとは考え難い。封じは一息に弾け飛んだのでなく、徐々に脆くなっていたようじゃ。今はまだ斥候を放てる程度の隙間だと考えるが妥当じゃろうて」
せっこう
「斥候…様子見って事?じゃあもしそれが向こう側に伝わって封印綺麗になくなったら…」
「最早敵なしと黄泉の軍勢が押し寄せるじゃろうて」
「うーわーぁー…」
「…神夜?言っとくが次に死ぬ思いするのはお前じゃから」
「そんな理不尽なっ!?」
ずびしッ!!
「だから最初から狙われるっつったろがこの馬鹿!」
突っ込まれると解っていても乗らずにはいられない自分はきっと、笑いの星の下に生まれたんだろーな。と神夜は思った。否定は…出来ない。
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