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神夜には両親がいない、ずっとずっと幼い頃に亡くしたので二人の顔すら覚えていないけれど、もう会えないのだと悟った時の絶望は今でも根深く突き刺さっている。
祖母と二人暮らしだった神夜は小学校に上がる前から…それこそ物心付いた頃から、子供には難しいよく解らない話を聞かされて育った。
異形の化生から人々を守る術を失ってはいけない、この家を継げるのはもうお前だけだから…婆ちゃんの教える事を一つでも良い、覚えていておくれ。いつかお前の身を守る為に少しでも多く確かに、身に付けておくれ…
彼にはそれが良い事なのか悪い事なのかも解らなかったし、拒絶という選択肢が許されている事さえ判別が付かなかったから、ただ泣きそうな表情をして物凄く悲しい声で謝る祖母の為に…喜んで話をねだって聞いていただけだったのだ。
絵本の鬼退治が本当にあった事実で自分にもそれが出来ると…出来なくてはならなくなったと知っても、自分が普通の子供とはかけ離れた生活をしていると知っても、自分を不幸だと思った事はない。
祖母の話は本当に難しい物ばかりだったけど、そのいずれも自分が産まれるより以前から家にいるらしい朧気な姿をした者達に力を貸して貰う方法で、神夜にとって友達が増えるという楽しさに直結した。
だから努力して才を研いて、異界の者の力を借りる術を学んだ。けれど皮肉にも、逆に神夜は守るべき多くの人間に疎まれた。排他的な人間は彼を奇異の目で爪弾いては気味悪がり、忌避した。
今なら、何故あの頃の自分に人間の友達が一人も出来なかったか解る。でも解らなかったのだ、昔は。本当に。
しゅうかい
人々の醜怪さや残酷さを知って孤独や理不尽を泣けないくらい味わって…しかし投げ出す事はしなかった。
祖母が言うのだ。いつか理解を示す者が現れると、認め分かち合う者が現れると
だから信じた。そして祖母の言葉は真実であったと証明されている。神夜の隣には稀然がいる。いつも付かず離れず傍らにいる、自分と同じ異能の力を持った友が。
「…婆ちゃん生きてる!?」
くさむ
裏口から草生した庭を突っ切り、池を構えた正面の縁側から侵入を果たすと、家主を捜し二人はすぱすぱ襖と障子を開け放して行く。
しんと静まり返った我が家のそこかしこに荒れた形跡が見受けられた。
こご
神夜の胸を凝った物が塞ぐ。どうしても最悪の想定が過ってしまう。
「婆ちゃん…そんな…」
答えは返らない───────
「跡形もなく死んじゃったらっ………生命保険からお金下りるまで、七年もかかっちゃうじゃないかあああああぁ!!」
「待てコラ」
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