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「─────って言われたのにお前はのこのこ部活行くんだな」
「それはそれ!これはこれ!」
明くる朝ジャージ姿で道中を行く神夜の隣で、生まれ着きだろう茶髪の偉丈夫な少年が、制服姿で顔を顰めていた。
彼の名前が高原 稀然、小学校からずっと一緒で、今までの高校生活もずっと共にして来た相方だ。
「あーもう、婆ちゃんが叩いたとこまだ痛いよー」
「お前が悪ぃんだよ」
「だってさぁ、鬼がどうの星がどうの言われたって、実感湧かないんだよ」
「鬼なら見るだろうが」
「…きーぜーんー?」
吐き捨てるような物言いに唇を尖らせ、神夜は目を眇める。彼の自分を貶める口振りが、神夜は好きでなかった。
稀然は鬼の家系に生まれた子供だ、遠い遠い昔に人と結ばれた鬼の血を引く系譜。けれど今やその血も薄れほとんど人間でしかないが、稀然だけは少し事情が違った。
「実際危機感ないにも程があんなお前は…いつ闇討ちされても知らねぇぞ」
「なんで稀然もそんな僕が絶対狙われる!って言い方すんのさ」
「そんな目に遭えばいくらお気楽能天気なお前でも、自分から鬼に近付くようなアホな真似しなくなって良いかと思って」
…ああそう。
自分でも、稀然を見やる視線がうっすら険を帯びて行くと解る。見慣れた横顔に憮然とした物が込み上げ、そのままに神夜はむすりと声色を落とした。
「なぁんでそうヒネた言い方するかな…稀然は」
たむろ
パッと見はそこらに屯す不良のようかもしれないが、稀然は性根の優しい誠実な人間だ、断言しても良い。けれどそれを真っ直ぐに表現出来ない不器用な質なだけで。
彼がそうなってしまったのは決して彼だけのせいではない、どちらかと言えば幼少期…神夜と会うまでに培われた経験の賜物だろう。
事あるごとに自身を卑下するのが、稀然の難点だと神夜は思う。彼は彼が思う程危うい存在なんかではないと言っているのに。
「…稀然は僕の事を殺そうとしたりなんか絶対しないし、鬼だなんて言わない。友達の悪口は許さないからねー僕ー」
「……」
唸るような声音で言い切った台詞に返事がないのは、長年の付き合いで解っている。だから言える、稀然は絶対自分を傷付けたりしない。互いに助け合える存在なのだと信じている。
これまでだってこれからだって、誰が稀然がなんと言おうとだ。
「それにねー説得力ないんだよ稀然、いっくら鬼だ鬼だ言ったって稀然は半分以上凡人・常人・人の子・風の子・元気な子〜、っていうか鬼ならやっぱり鬼〜のパ…」
バキャ!
「…今何か言ったか?」
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