短絡的見解にて
「…くぁ…〜んぬぅ」
「あ 北本が覚醒した」
二組にはその生態から犬と称される男がいる。人懐っこくはあるが寝たい時に寝て(居眠り)食べたい時に食べ(早弁)馬鹿と言って過言でない程度の記憶力しか持たない(赤点王)男、名を北本 圭太郎。渾名はキタロー。
「…オッスおらキタロー、おはよーシノ、ちぃ」
「全く以てお早くないけど、キタローくん部活行かないの?」
「メガ行くっちゃ!つかなんか騒がしーお、なんだなんだちぃ誰か美人でも来た?」
今も寝転けて邪魔だと教卓の上に俯せで放置されていた現状を何ら疑問に思わず、ひょいと飛び降り手近な女子に遅過ぎるおはようをのたまいながら、俄に活気付いている出入り口付近の人だかりに好奇心と輝く眼差しを注ぐ。
北本、小は揃ってそちらに目を凝らし、上背はあるがひょろりとした体躯の兵衛がびくりと戦慄いた隙間に、ふわふわの枯茶色をした長い髪を見付ける。
「んーと…うん、眼鏡で可愛い人が来たねぇ」
「ちぃちゃん宮津貝さん知らないんだ?あの人凄い人だよ」
「ミヤッ…マジか!? あの奇跡の人!? やっべオレちょっとサインしてもらぅぅぅ!」
正確には凄い噂の数々を立てられている人、である。ありとあらゆる現実味のない噂を…にも関わらず絶えず囁かれる人物、生ける都市伝説と渾名される少女、それが宮津貝ゆきるだ。
「へー凄い人なんだぁ」
「北本の奴部活はどうした…まぁ関係ないな。宮津貝さんはなんか学校の裏番とか女帝みたく言われてんだよ」
「スケバン…ヨーヨー!? デカ!? カッコいいねしーちゃん!」
「ちぃちゃんの基準ってたまに時代錯誤だよね」
「えー…しーちゃんはスケバン嫌いな人?」
「実害なければどうでも良い」
「そっかあ私もサインして貰おうかなぁ」
「別に止めないけどスケバンではないと思うよ」
「あれー?違うんなら良いやぁ」
そう、彼女は別にスケバンだとか呼ばれるような素行の乱れた風体ではない、むしろ入学式で新入生代表の挨拶を務めた程優秀らしい。
ただ、不良を一言で操れるだとか校長に土下座させていただとか噂されているだけだ。
「うあああああ!! やっつぁー!貰ったちぃオレ宮津貝さんにサイン貰ったぉー!!」
「やったねキタローくん。部活は遅刻だけど」
「ぴぎゃ!? やっべミラクル走れっちゃオレぇぇぇぇ!!」
「頑張ってねー」
「そのままシバかれてくたばれば良いのに」
「…しーちゃんキタローくんに厳しいねぇ」
「アイツ煩いからウザイからキャラめんどいから。しかもちぃちゃんに馴れ馴れしいから死ねば良い」
「しーちゃん…私友達いなくなるよ…!?」
「………………男だけにするから」
「…なんかあそこ怖ぇな」
「何話してんだろなー」
「篠原の背後に餓えた熊みたいなオーラ出てね?」
火のない所に煙は立たない、しかし煙は流れる物
しーちゃんはちぃちゃんが居ればそれで良い。そんな感じ
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