遭遇少年少女
「あのー」
「はい?」
「今日はひょーえくん来てらっしゃいます?」
「あーいますよ、兵衛ーっ」
「う?どうしたの島谷くん」
さあ帰ろう、という所で呼び止められた兵衛は手招く島谷に首を傾げる。行けば隣のクラスの女子生徒が眼鏡の赤いフレームをくいくいと直しながら…それは些か芝居染みた所作であるが…興味深々と言った風情で兵衛の柔和な面立ちをじいっと仰ぎ見て来る。
「ほうほほうほほほーう!貴方がひょーえくんっ…噂に違わぬ数珠っぷりですね!部活とかなさってます!?」
「え、あ…いえ特には…あのなんで僕の名前…」
「じゃあ決まりですねっ私の独断専行により貴方委員会に入りなさい。入るよね入ります入れば入るよらりるれろ!」
立て板に水、或いは怒涛の勢いで捲し立てる彼女に兵衛は目を白黒させる。
「えっ!? いっ委員会って?!」
「はーいじゃあ名簿に記入しまーすここサインして下さーい、ありがとうどうもありがとう!」
「いやいやいやいやあのっ」
ずずいっとペンを握らされ訳も解らず半泣きで抵抗する兵衛に、流石に島谷も訝し気な顔をする。止めるべきか傍観に徹するべきか、彼もまた戸惑っていた。
「…兵衛、知り合い?」
「うっううん全然!」
「やーですね超初対面ですけど何か?あ、ほら名前書いて下さいってばこるぁ」
「何この人悪徳業者の回し者か何か!?」
「ひぃえええええっ…」
「よく解らんが逃げろ兵衛っ…!」
友人に天秤が傾いた島谷が間に割って入った時、逃げ口を塞ぐ形で兵衛のもう一人の友人が顔を出した。
「あー?何遊んでんのお前ら、交ぜて交ぜて」
「大気くん今は来たらダメぇぇぇ!」
「最悪のタイミングでうっざいの来た!!」
何かとうざいと評される相葉大気こと双子兄、その人である。
「貴方がもしや岡山くんのお兄さん?」
「ありゃ大地くんの友達?弟がいつもお世話になっておりますーそうです俺がお兄ちゃんの大気ですー、島谷くん後で体育館裏に来やがりなさいてめっ」
「私、岡山くんと同じ委員会の宮津貝ゆきるですどうぞよしなに。あ、お近付きの記念にお兄さんも如何ですか委員会、お友達とご一緒に」
「ちょ、何この流れるようなナチュラルで鮮やかな手腕!この娘怖い!」
最少労力で最大戦果を挙げる資質を垣間見せるゆきるに島谷が戦慄する。しかし大気はけろりと掌を泳がせ断りを入れた。
「悪いね俺一応図書委員なんだわ」
「あら残念、折角ひょーえくんにも入って頂いたんですが…」
「えっ いつの間に!?」
「マジか。スゲーな兵衛頑張れ」
「い…今喋ってる間に何故か手が勝手に名前を…!? 何をされたのかも解らない!!」
「やーですねひょーえくんまるで人をエスパーみたいに。ひょーえくんの手がひょーえくんの名前を書いたんだから超合意の上でしてよ?ふふふふ」
「怖い!この娘怖い!!」
意思に反してテスト用紙に対する条件反射の如く名前を記入してしまった兵衛の蒼褪めた顔に、ゆきるはにこやかな…満面過ぎる笑みを浮かべた。
「ひょーえくん今日は丁度委員会のある日なので、放課後早速皆さんに自己紹介して貰いますね」
「あぁっ…あの僕何委員会に入っちゃったんですか!?」
「止せ逃げれなくなるぞ兵衛!?」
「もう逃がしませんよふふふ、我々は日夜生徒の皆様のお役に立ち学校生活の安寧を守り勤しむ、至って善良で献身的な影の大黒柱…」
用務委員会ですと彼女は名乗った。
(どうしよう)
(全く想像が付かないのは僕が世間知らずだからかな!)
同じ手法で双子弟もやられました。
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