戦略的撤退にて



「完敗さ…燃え尽きたぜ」

「どっどうかした大気くん」

「ふ…あんな天然物俺に捌ける筈なかったのさ…」

「た、大気くん板前目指してたの?」

「突っ込んでも突っ込んでもキリがない…所詮俺にはツッコミの才能なんてなかったんだよ…!」

「えっ!? なんの話!?」

「ほっとけ兵衛、それただの兵共が夢の跡みたいな…無謀な特攻を仕掛けた後の虚しさに、心折られた奴の屍だから「島谷マジくたばれ…いや先に俺がくたばる。ガクッ」

「だだ大丈夫大気くん?」

「うぉぉぉぉ俺の親友はお前だけだ兵衛ー」

「くたばってろよ負け犬。コイツちぃちゃんに挑んだんだよ無謀にも」

「そっそれは…えーと…頑張ったね」

「優しい!! 兵衛超優しい!! 心の友!」

「こんな奴に情けをかけるなんて…お前は聖人か」

「えぇ!? いやそんな、そんな事は…」

 優しさに飢え過ぎて感涙に咽ぶ大気とマジマジ驚愕に目を瞠る島谷に兵衛は狼狽えて手をぱたぱたさせる。上背180cmはあろうかと言うノッポの仕草にも関わらず、どこか幼気な、無垢な雰囲気がある。
 堺 兵衛はそんな癒しキャラとして二組の最後の良心と渾名されているのを、本人だけが知らない。

「馬ッ鹿島谷、兵衛の1/3は優しさで出来てんだよ! あと癒し系と大和魂と思春期的なムフフで構成されてんだよ! なっ」

「えぇぇぇ!? えーと…あ、うん、そうかな…?」

「いや兵衛そこは違うなら違うって普通に言っとけマジで。特に後半」

「否!思春期男子として否定なぞさせん!特に後半!!」

「う、うーんなんかもうそれで良いよ」

「兵衛…お前って奴は…」

 へにゃ、と柔らかく相好を崩した兵衛の懐の広さに島谷の目頭も思わず熱い物が零れそうになる。くっと袖で目元を拭う島谷に兵衛は友人らの悪ノリ…いや他愛ない談笑ににこにこと楽しそうな顔をするばかりだ。

「なっ泣かないで島谷くん…っていうか良いよ大丈夫だよ気にしないよ、こういう感じの砕けた話とかととと…友達とするの憧れてたんだ」

 ほら僕やっぱり皆からすると結構変だから、今まであんまり友達も出来なかったし…

 しょんぼり呟く兵衛の制服の裾からチラチラと覗く数珠アクセ。人柄は素晴らしいのに奇異の目で見られる一因を、何故か少年は頑なに手離そうとしない。


 理由はまだ誰も知らない。






(だけどいつか)

普通の子なのに普通に生きてけない薄幸男、兵衛くん。



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