二組名物双子兄弟
「双子弟、ゴミ捨てて来て」
「双子兄、邪魔だからもう皆にジュース買って来て。つか奢れ」
…敢えて問おう、キミに名前はあるか?もしキミがさる文豪の書き記した名作の語り手であるあの偉大な名台詞を言う資格のある動物であるならば、しれっと述べてくれて構わない。
だが勿論俺には極ありふれてはいるが自分の名前がある。そう、吾輩は人である。名前は相葉大気と言う。決して双子兄とか二俣川アニーとかではない。この高校に通って既に一年ばかし経つ以上、少なからず個人情報は知れている筈だ。
名字とか名前とか出席番号とか一人称とか性格とかノリとか渾名とか本名とか、そんな個人を容易く特定出来得る情報を既に握っている筈だ級友達よ、特に俺の後ろの席に位置する二言目のお前、明らかについでに乗っかっただけの分際でしれっと奢れとか言ってるお前えええええ!
「島谷お前じゃああああい!何で罵倒の後に平然とジュース奢れの流れになった!? しかもクラス分全員要求でさりげなく気遣い屋演出してるつもりですか馬鹿野郎!」
「オレはほら、出来る男だから」
「やかましいわこのチャラ男が!パツキン泥水色に染め上げたろかい!」
ただただ理不尽に突き付けられた要求に箒の先を突き付けて激昂する双子兄・大気は、弟にゴミ捨てを言い付けたクラスを仕切る女帝にも猛然と抗議した。
「せめて個体識別してくれよ早瀬様!もう馴れ馴れしく大気って呼び捨てろよ!大地くん以外ノット兄呼ばわりーっ」
「うっぜ」
「辛辣ゥ!」
しかし早瀬は簡潔かつ冷徹にたった一言で大気の陳情を切って捨てた。取り付く島のない鮮やかな即答、刃物の如く切れ味鋭い言の葉に大気はばっさりと両断される。理不尽ここに極まれりだ。
そりゃあ弟に泣き付きたくもなるだろう、しかし当の双子弟・大地と来たらさも当然とばかりの無関心さで更なる追い討ちをかけて来た。
「俺の事は是非よそよそしく苗字で岡山と」
「ちょ、大地くんなんだい一人だけ苗字呼ばわり主張とかさぁ!ノット他人行儀!お兄ちゃんは許しませんよーっ」
「ほらこれと身内とかマジ嫌じゃん、是非苗字呼び推奨」
「冷たいわーっ弟が反抗期!お兄ちゃんはとても残念です!」
「どうでも良いわ早く行って」
地団駄踏む兄に酷く投げやりな一瞥を向けるのみで、大地は至極淡々と大気の言を黙殺する。いっそ清々しい程のスルーぶりに島谷はよよよと泣き崩れる大気を嗤って見下ろした。
「馬鹿だろお前ホント馬鹿」
「早瀬のクールっぷりに泣ける…つか今馬鹿っつったろ島谷!次の期末で泣かすから!」
「ほら双子弟仕事しろ働け」
「ん」
早瀬に言われるままゴミ箱を抱えた大地はそのままおとなしく廊下に踵を返す。背後で激化している大気と島谷の低レベルな舌戦に、そろそろ早瀬の鉄拳制裁が下るだろうと内心合掌して、無闇に賑やかな二組の教室を後にした。
「ふはははは。数学以外負ける気がしねぇ」
「よっし言ったな覚えとけマジ数学だけは泣かす!」
高らかな期末対戦宣言の直後、風切り音を伴って早瀬のドロップキックが炸裂した。クラス一同が合掌し、二人は仲良く粗大ごみと化す。
「…ウチのクラス仲良しだよねぇー」
「それ以外何も良いとこないもんな」
今日も二組はにんやかです。
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