09.
プルルルル、プルルルル。
相手を呼び出していることを表すこの音が、あたしは結構好きだったりする。
―カチャ。
『…もしもし、蔵?』
[杏子か?]
『うん』
[電話してきたっちゅ―事は、もう片付け終わったんやな]
『まあね』
[自分にしては早かった方やな]
『うちの兄貴驚きすぎて壊れてたよ』
[ははっ、まあそりゃそうやろ。
何たってあの杏子やで?]
『は!?それどういう意味!?』
[…で、そっちはどや?]
『あ―…。
お隣りが丸井だった』
[………………はあ!?]
『でも丸井の弟可愛いかったよ!』
[いやそうゆう問題やないねん!]
『え?……ああ。
あたしは蔵ノ介さん一筋ですよ―』
[…俺もめっちゃ好き。
丸井クンなあ…、お願いやから惚れんでな]
『惚れる?このあたしが?
ないない!絶対ない!』
[せやったら良いんやけど]
『は―、早くもあたしは大阪に帰りたいよ。
受験して、四天宝寺高校に行きたい。
蔵と青春したい―』
[俺もやって。
あんま可愛い事ゆうたら会いたなるやろ?]
『あたしはもう既にホームシックですが』
[またすぐ会えるわ]
『そんなもんかなあ…?』
[そんなもんや、すぐ会える]
『出たよ蔵ノ介パワー。
何となくその通りになりそうな気にさせるわ』
[まあ俺聖書やしな]
『………あっ!
うそ、もうこんな時間!?
蔵、朝練起きれる!?』
[…あ]
『うわ―、ごめん!
完璧あたしのミスだよ!!』
[いや、ええよ]
『ごめんホントごめん!
次かける時は時間帯よく見るね!』
[はは、まあ気いつけや。
ほな、おやすみ]
―ちゅっ
『……………おやすみ、なさい』
顔が一気に熱くなった気がする。
耳にまだくっついている携帯から、プ―、プ―と音がする。ああ、切らないと。
そっと耳から離して、通話を切る。
最後のあの音。
あたしに向けられたあの音。
なんていうか…、キザな奴。
そんな行動が似合う白石蔵ノ介が、あたしは本当に好きなんだけど。
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