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08.












『…満足した?』

「………おう」


散々喚いたうちの兄貴は今居間の(駄洒落じゃないよ!)ソファーの上で胡座をかいている。
いやあ大変だった、何が大変だったかってそりゃあんたうちの兄貴を鎮めるのにだよ。


「―――」


外から声が聞こえた。
此処まで聞こえるとは…、発した本人は健康体なのだろう。
元気なのはいいことだ、そして健康なのもいいことだ。
蔵に言わせれば"エクスタシー"だろう。

"ん―っ、エクスタシー!"

懐かしい声が頭の中で蘇る。懐かしくってしみじみする。
そういや引っ越しが落ち着いたらまた電話してくれと言っていたな、電話してやらないと。
嬉しい約束を思い出して自然と頬が綻んだ。
蔵は変人で変態でどうしようもない奴だけれど、ばかわいいから結構好きだ。


一人感慨にふけっていると、真樹兄ちゃんが手に何か持っていた。
大阪名物とでかでかと印刷された派手なそれは、あたしが持って来た隣人への手土産だ。


『こんな時間から…、何処行くの?』

「お前と同い年のやつに挨拶。
お前も行くだろ?」

『行きますとも!』


にぱっと笑顔で答えた。
確か話によると、その方は部活に入っておられるだとか。
こんな夜遅くまで部活に青春を燃やすなんて、中々好感が持てるが、それが男子ならばきっと仲良くはなれないだろう。
あたしは男子は正直得意な方ではないからだ。
こんな地味なやつ…、ヘッとか思っているからである。


















………何だ何だ、今あたしの頭に警報が鳴り響いている。

ビ―ッ、ビ―ッ!近寄るな、キケン、キケン!!
ビ―ッ、ビ―ッ………!

何故こんな警報が鳴り響いているかというと、真樹兄ちゃんが押した隣人のインターホンの横の表札に中々な達筆で"丸井"と彫られていたからだ。

落ち着け落ち着け落ち着くんだ栗木田。
丸井だなんて探そうと思えば両手の指がオーバーしちゃう程沢山いらっしゃるだろうが。

そう自分の限界を知らない毛穴の開き具合に言い聞かせる。
いい加減汗を放出するのは止めてくれないか、一人炎天下の下、待ち人を待つ汗まみれな人間にはなりたくないのさ。


〈どちら様ですか?〉


優しそうな女の方の声が聞こえた。
ほらやっぱり違うんだよ!こんなに気品のある声帯をお持ちの方だもの、あいつとは無関係さあははは!!


「隣の栗木田です、妹が今日来たので挨拶に伺いました」

〈あらそうなの!じゃあちょっと待ってて頂戴〉


ぷつっと回線の切れる音がした。
それと同時にどたどたと家の中から足音が聞こえてきた。


―どたどたどた、バンッ!!

「真樹くんこんばんは!!
今日は一体どうしたんだよ……い?」

『嘘やん……』


信じないあたしは信じないぞ。










『まさか隣が丸井ブンブンブン太だなんて―――!!』

「おいちょっと待てなんだその呼び方」

「真樹兄ちゃんこんばんは―!」

「真樹兄ちゃんこんな時間にどうしたの―?」

『What!?』


丸井の後にちょこちょこと出てきた小さな男の子二人組。
顔のパーツ全てが丸井と似ていて、まるで……。


『ミニマム丸井っ……!?』

「「なんだよそれ」」


兄貴と丸井、二人同時に突っ込まれたがまあ良い。
どうやらミニマム丸井は丸井の弟くんらしく、自己紹介をしあって少しは親しくなれた。気がする。

なんだよあたしの知り合いの弟だとか甥っ子だとか皆可愛くってお姉ちゃんショタに目覚めそうだよハアハアハア!


兄貴の手からあたしが持って来た手土産を奪って弟くん達に目線を合わせ、はいっ、と手渡す。

『これからどうか、よろしくね!!』


にっこにっこしながらそう言うと、弟くん達もにっこにっこ笑ってうん!と言ってくれた。
隣に天使が住んでるだなんてまじ天国だ。











軽い足取りで家に帰り、部屋に入って明日の準備をしていてはっと思い出した。


あのエンジェルズの兄貴は誰だ。
丸井ブン太だ。

イコール、

丸井ブン太も隣人さんじゃないかああああああ!



そう叫んだ時、頭の中で"シクヨロ☆"という丸井の声が聞こえた。




















(最悪だ最悪だ最悪だ)
(隣人が苦手なやつとか一体何処の少女マンガ!?)
(神様アアア、あたしこんなベタなの望んでませんからアアアア)


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あきゅろす。
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