[携帯モード] [URL送信]
慟哭




レノとルードは翌日から、私の護衛に付く事になった。この件についてプレジデントからは、セフィロスの思惑通り、何の示唆も小言も無かった。

『セフィロスが話したのか……。親父は昨夜も遅かったと聞いた。会議だと? 何時まで一緒だったんだ──もし親父がセフィロスと寝ていたら殺してやる』

根拠も理由もないこの間抜けな想像に、私は酷く取り憑かれていた。セフィロスは私を抱いた。その仕草は、手慣れたものだった。

──もし、


「若社長、会議の時間だぞ、と」

こういうくだらない思考を中断させてくれたレノには、感謝するべきかもしれない。だが朝からへらへらと機嫌よくロッドを振り回すレノに、私の神経は逆撫でされていた。

「分かっている。執務室から出て行け」
「オレの任務は若社長の護衛だぞ、と。24時間お守りしますよ」
「神羅ビルの中では、ドアの前で十分だ。私の気分を害するなら、他の者と交代させる」

私の睨みが効いたのか、レノはあたふたとドアまで後退した。

「ルード! ほら、若社長が通るぞ」

全くうるさい。

会議と言っても、私の出る会議は、中堅クラスの幹部の報告会で、全く大した内容ではなかった。表向きプレジデントの名代として顔を出すものの、私より年上だらけの幹部に甘く見られている感覚はある。

──だから、私なりの交渉術を考えたのだ。

私の容姿は母に似て美しい。背丈も、この一〜二年で親父を追い越した。私を性の対象として見てくる視線を、男女問わずパーティーや会社などで度々感じていた。
その中から振るいにかけ選別し、自分の有利になる相手と夜を共にした。容易い事だった。
見返りは忠誠と私を認めさせる事──。
金なら幾らでもある。欲しい物は自分で手に入れられる。
だが、人の心は──私を真に能力者として他人が認める事は、並大抵の事ではなかった。
何をやっても"プレジデントの息子"だから。"神羅のバック"があるから。失敗すれば必要以上に失望と非難を受け、成功すれば当たり前。会議でも何を発言しても「では、それはプレジデントにお伺いしてみましょう」と言われた。私の意見など、最初から必要なかった。だから誰かを自分のテリトリーの中に飼っておく事は、だんだんと私の立場を楽にした。前の晩に寝た相手は、咳払いをしながら私の意見を立ててくれた。「副社長の言う事も最もです。今一度、再考の余地があります」。

そういう瞬間は、最高に気持ち良かった。誰かが、私の考えを支持してくれる。認めてくれる。重要な事のように扱ってくれる。
セフィロスはそういう私の高名心を満足させるだけではなく、私の自尊心をも震えさせた。

セフィロスに抱かれている──それが何を示すのか、馬鹿でも分かるだろう。
誰かに自慢してこの関係を公にしたら、今度こそ人々は私を認めない訳にいかないだろう。

セフィロスに抱かれたい。認めさせたい。ぐるぐると甘い欲求が巡るが、私が黙って誰にも話さないのは、やはり心のどこかでセフィロスを怖れているからだ。




「プ、プレジデント……セフィロスも、」

会議室の中央に座り、今日もそつなく議題を取り仕切ろうとしていたが、急に現れたプレジデントとセフィロスに、私は眉をひそめた。特に意味ありげにセフィロスを睨んでやる。彼を睨める資格が私にはあるから。

「急に申し訳ない。ここに君たちが揃っていると聞いてな……ルーファウス、緊急だ。今日は議題を変える」

私は、親父のその発言の意図を汲み取って、はらわたが煮えくり返った。議長交代だ。代われと言ってるんだ。何か会社にとってマズい事案が発生したのだろう。





[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
無料HPエムペ!