慟哭
「っ! セフィロス」
そこにはまだ戦闘時に身に付ける防具を纏ったままの、青白いセフィロスがいた。
「先客……タークス?」
「い、いや。──レノ、下がれ」
そう言うのが精一杯だった。レノはゆっくり私とセフィロスを見つめていたが、かのセフィロスに動じる事もなく「分かりましたよ、」と部屋を出て行った。
「──あいつは変わっているんだ。気にしないでくれ。新米でまだ何も分かっちゃいない。今、着いたのか。心配していた……」
おかしな事に、何故だかレノについて弁解がましい口調になっていた。
セフィロスは顎に手を組み暫く黙っていたが、何か深刻な顔をして私にこう言った。
「タークスの新米か…ルーファウス、あいつをお前の護衛に付けるべきだ」
「レノを? どうして」
「最近のアバランチの物騒さは無視出来ない所まで来てる。神羅の後継ぎは奴らにとって格好のターゲットだろう。ゲリラ戦だ。いつ何があるか分からない」
「私にもしもの事があったら……セフィロスが護ってくれるんじゃないのか」
彼は、フッと笑った。
「勿論、私が傍にいる時なら全力で護るさ。しかし、私の身体は一つだ。プレジデントの命令があれば、プレジデントを護る。敵と戦えと言われれば、お前を置いて戦いに行く──ソルジャーとはそういう物だよ」
こういう冷静な判断を私が受け入れない筈がない。ましてソルジャー1stの提案だ。しかし何故だか心の奥底が、少しだけズキッと痛んだ。
「……アバランチはそんなに物騒なのか。報告書では規模に置いても、新羅にはかなう筈がないが」
「報告書か──ふ、奴らは必ず脅威になる。新羅のお坊っちゃんはもう少し広く、自分の意志という物を持つようにしないとな」
自分の意志? お坊っちゃん? 内心、眉をひそめたが、私は黙って頷いた。
「分かった…だがレノだけでは心配だ。ルードと二人……あいつらを護衛に就かせるよう親父に相談してみる」
セフィロスは苦笑しながら私から目線を外し、デスクの上の内線をすぐさまダイアルした。
「セフィロスだ、ヴェルド主任はいるか」
私が何か不味い物でも出されたかのような眼差しで彼を見つめる中、セフィロスは二〜三言で、レノとルードの二人組みを、明日から私の護衛の任務に付くよう命じてしまった。
「物事は迅速に確実に──だ。私の命令なら誰も文句を言わないさ」
私は少し青ざめていた。私には自分の護衛を指示する決定権すらない。
「そう……それで今夜は、」
「今日はまだ任務の片付けが残っている。プレジデントと話し合わなければならない問題があるしな。またこちらから連絡する」
そう言うとセフィロスは立ち上がって、私の執務室を出て行った。
私は唇を噛み締めた。親父と自分自身の無力さに負けたような、惨めな気分がした。
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