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慟哭



セフィロスに初めて会ったのは、遠い昔。父の社長執務室。幼い私は硬直したまま、会話に加わる事も許されず、ただ彼の顔を尊敬の眼差しで見つめていた。
いや、その頃の話なんてどうだっていい。
セフィロスはただ遠い存在だった。親父のカンパニーを象徴する、華やかな"英雄"としてのセフィロス。
私には、遠い人間だった。その彼が私にとって重要な存在となってしまった、あの日──。




「何をしている」


私は深夜の暗くなったカンパニーの隅の部屋から廊下に出てきたばかりで、ハッとして、まだ少し紅潮したままだった顔を上げ、同時にドアを閉めた。

「…っ、」

薄暗闇のビルの廊下の中、ボウッと立ち上がる鱗の火のように、彼の姿は青く浮き上がっていた。

「………、」
「プレジデントの息子……ルーファウス、だったな。何をしていた」


私は、動けなかった。先ほどまでは部屋の中で、最近使い慣れてきた冷酷な笑みを浮かべ、相手の男をひざまつかせていたのに──。

「黙る、と言う事は、他人には話せない事をしている訳だ。……ルーファウス、私たちソルジャーが情報を欲しい時、どんな拷問を相手に行うか知っているか」
その台詞の内容もさる事ながら、彼の深い静かな声色に原始的な恐怖を感じ、私は硬直して息を止めた。ゆっくり射抜く眼差しで、彼はこちらに歩みよってくる。

逃げたい──。

そう直感的に思った瞬間、目の錯覚かと思わせる程の柔らかい笑みが彼の顔を覆った。

「ふ、…やはりまだ若い。怖じ気づくようなタイプでは無いと思ったが──神羅の後継ぎに、私が何かする訳がないだろう」

それでも私は汗をかいて胸に手を当て、棒立ちに警戒し続けていた。

「……セフィロス、」

ソルジャー1st。ソルジャーの何たるかを、私はこの時、一瞬で身体で理解したような気がする。戦う、"戦士"。人は戦って初めて戦士になれるが、セフィロスは立っているだけで戦士と成りえた。眼差しで槍を刺され、生手で心臓をくり貫かれる。


「セフィロス、……ここで何を、」
「震えなくていい。任務で出張していない時は、私だって神羅の社員だ。ビルを歩いていても不思議ではない」
「そ、それは、そうだが……」
「──お前は、野心家だな」

いきなり言われた一言に、私はまた口を閉じた。

「ふふ……その年で、なかなかに自分の使い道を知っている。効果的な立場の利用か──身体を与えてまでの、今日の見返りはなんだった?」

その意味深な笑い方で、ハッと後ろのドアを見返した。彼にバレた!

「っ、 お前には関係ない」

確かに若かった私は、こういう場合の対処の仕方が分からず、踵を返して逃げ出そうとした。


「待て、」

瞬時に手首を握られ、彼に触れられた。何故だか、カァーと顔が赤くなり、私は抗って振り解こうと暴れた。
暴れる私をセフィロスは事も無げに抱え上げ、私は肩に乗せられた。
訳は分からないがその行為が悔しくて、黙って歩くセフィロスの背中を幾度となく叩いた。

しかし、私は叫ばなかった。叫んで誰かに助けを呼ばなかった。

ただ、悔しさと身体の疼くような火照りに自分で涙が出て、顔をグシャグシャにして無言でセフィロスの背中を叩いていただけだった。





そこがセフィロスの部屋だったのかは知らない。ただの空いていたビル内の仮眠用の個室だったのかもしれない。






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