[携帯モード] [URL送信]
慟哭





あの頃に戻りたいとは、死ぬまで絶対に思わない。
あんな残酷で、裏切りと屈辱の時代──。

しかし、何故だろう。

──いつも思い出す。

私を裏切り愛し続けた、冷酷で慈悲の心もない片翼の黒い天使──。







『ルーファウス・神羅』
私は生まれ落ちた時より、様々な運命をその身に植え付けられた。父・プレジデント神羅は、ただ一人の息子である私を、彼なりに大切に育てたつもりだろう。
幼少の頃から神羅カンパニーの幹部達を筆頭に、科学部のエリートらにも帝王学を叩き込まれた。常に状況を把握する冷静な理解力と行動、知識と体力を私は求められた。
神羅を次代に背負っていく者として私の教育は、父、プレジデントの飽くなきカンパニー肥大化と共に、その資格のレベルの高さを次々に上げられていった。


私はあの頃、まだ十七歳だった。

神羅カンパニーの総務部調査課、"タークス"が形を成し始めた頃。
初代主任ヴェルドが徹底した"任務結果至上主義"を展開し、これが後のタークスの真髄に繋がっていく時代。



「若社長、今夜は真っ直ぐに屋敷に帰る方がいいぞ、と」
「……レノ、下がれ」


赤毛の男が私を塞ぐように、通路を立ちはだかった。私と余り年の変わらない新米タークス。こんな若い連中を、カンパニーは次々と神羅兵やソルジャーとして雇っている。
一介の企業が兵を雇う意味……親父は企業軍隊まで作って、何をするつもりなのだろう──。


「アバランチが七番街で暴れているぞ、と。若社長、今夜は早めに帰った方がいい」
「アバランチ?──ふん、奴らに何が出来ると言うんだ。貧困街のチンピラ共。資金も武器も神羅(うち)にかなう訳がない」

私は余りにも馬鹿らしいこのレノの情報に、眉をひそめた。
毎日上がってくるプレジデントへの報告書で、アバランチの動向は完全に把握している。
"反神羅"か何か知らないが、社会への鬱憤を持て余した人間が反骨行動に出るのは、いつの時代にもある。規模や武器戦力を見ても、アバランチのしてる事は未だただの抗争と変わりない。

「ああいう屑を一掃するのがタークスの仕事だろう。暗殺、策略、諜報、誘拐──裏の仕事を今から徹底して叩き込んでおけ。お前は不似合いすぎる。髪を切れ、どけレノ」

レノは眉を尖らせ顔をしかめたが、頭上のゴーグルに手をやり大袈裟に溜め息をついた。

「若社長……ソルジャー1st(ファースト)は今夜は帰還しないぞ、と。任務遂行が延びている。ま、珍しい事じゃない──ただそれだけの話ですが。……じゃ、また明日だぞ、と」

一瞬、息の止まった私を置いて、レノはいかなる時もその手に離さなくなった電気ロッドを軽く振りながら、そのまま来た廊下を戻って行った。

『1stは帰還しない──』

私は急いで、自分の明かりの消えた執務室に戻った。






[次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!