8 「貴方になら話してもいいかもしれません…弟がいるんです」 「弟?」 そういえば結城と家族の話などはしたことがなかったなと考えながら205は続きを促すように尋ねる 結城は言葉を選ぶように少しの間黙り、それからまた口を開いた 「…家が落ち目になった時私の弟は一度貴族に売られそうになった事があります」 落ち目になった貴族の子供というのはある特定の人間に人気があるのだと結城は告げた 奴隷の子供よりはるかに行儀はよく、いいものを食べて育った肌は滑らかで肉付きがいい なによりその目、親に捨てられた事を知った絶望の瞳を好むのだという そこまで聞いただけでも205はおぞましさに言葉を失う 結城は声に静かな怒りを滲ませてまた話し始めた 「長男ではなく次男は使い道がないという父の判断です、勿論そんな事はさせませんでしたが」 結城は弟を守り、その後傾きかけた家はなんとかやれるだけの事をして立て直したという それでも、いつまたこのような事態で弟の身が危機に晒されるかわからない 「…私は父を許せない、だから父に約束させました」 この戦で高い戦果を上げ名を残せば結城が絶縁する事を認め弟を長男として、跡継ぎとして扱う もう二度と弟を無下に扱わないという約束 「父は私にはそんなことは無理だと言いました、けれど無理で終わらせはしない」 結城の声に迷いはない 強い男だと知っていたつもりで思った以上にこの男はまっすぐなのだと驚かされる 声に満ちる静かな気迫を感じ205は目を伏せた 結城には闘う理由がある、ならば自分にはなにがあるのだろう 目の前の男と肩を並べて闘う資格があるのかと思わされるほど自分には何もなかった 「……弟の為に…家を捨てる為に来たのか、お前らしい」 「えぇ。そうです。だから負けられないのです」 今はなくとも、目の前のこの男の願いを叶えるだけに闘う、それもいいのかもしれない そんなことを思い笑う相棒を前に205も笑みを返した [*前へ][次へ#] |