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"死の恐怖"が当たり前の状況など205には想像もつかない
平和な世界しか知らず今まで自分は守られていたことにも気づかなかったのだ

「……っ…」
「帰りたいか?…お前がもし本当に貴族の坊ちゃんなら、上の連中は文句も言わないだろうよ」

なんなら俺が話を通しても、と男が言うが205は首を振った
男の腕を掴み眉の寄った複雑そうな顔のまま見上げる

「…俺は…帰れない」
「そりゃまたどうして」
「…俺が帰ったら…俺の代わりにここに…来なきゃならない奴がいる…だから」

こんなほとんど初対面の男にそんなことを、と思うが205はなぜか言葉を止めることができなかった

「そいつにはやりたいことがあって人生の目標もある…俺には何もない、だから…俺がここにいるべきだ」
「…ほぉ…あの地獄を経験してなおそんな口が叩けるなんて本当の馬鹿らしいな、怖くねぇってのか」
「……」

怖い、とそう口にしてしまえばそれが本当にゆるぎない事実になってしまう気がして205は思わず口を閉ざす

弱い自分を認めてしまうのは恐ろしかった
今まで頂点であり続けること望まれ続けた為に本人も無意識に守ろうとしていた父の呪縛

弱い自分など誰も認めてはくれないしそんなのは本人でさえ認められない
それだというのに現実は、恐怖して、立ちすくみ、無力さを思い知らされた

「…俺は……」

口を開きかけ、黙る

怖かった、怖いに決まっている、と本当は言ってしまいたいがやはりそれを口にはできない
喉の奥に詰まった言葉は重りのようにそこから動こうとしなかった

黙り込む205に男のほうが先に口を開いた

「素直に言っちまえ。見りゃわかんだからよ。それが正常ってもんだ」



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あきゅろす。
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