8 あれからどういった処理がされたのかは205の中ではぼんやりとしていてよく覚えていない 覚えているのは死んだ叔父を発見したメイドが叫び、自分を部屋から連れ出した所までだ その後遠出していた父が報せを受けてすぐに戻り、早々に葬式の準備が執り行われる事となった 混乱した気持ちのまま205は葬列に参加している どこを見渡しても灰色の墓地は代々一族で使われてきたものらしいと聞いた 黒い服の大人達、濁った灰色の空 まるで世界がまるごとモノクロになってしまったかのような錯覚を覚えそうだ それとは対照的に皮肉なほど色鮮やかな花々がそうではないと教えてくれる 205以外他に子供の姿はなく気軽に会話できそうな相手もない ただ目の前で運ばれていく棺をじっと見つめていた 叔父が死んだあの場ですぐに涙が出なかったのはその死の実感が湧かなかった為だ すぐにいつもの調子でまた話ができるだろう、という感覚を205の中に残したまま叔父は死んでしまった 叔父は最後、どんな顔をしていたのだろう、何を思っていたのだろう 何故あんなことをしたのだろう、疑問は尽きない 何もかもがわからなかった ただもう叔父には会えない、という事実だけが現実としてある 黒い棺が地中に埋められていくのを見て受け入れがたいその事実をゆっくりと心が理解していく 理解してから静かに涙がこぼれたのと心のどこかに穴が空いたような気がした 声を上げて泣くようなものではない、ただ心の中のものがぽろぽろと零れ落ちるようなそんな涙だった 「…雅也さんに別れの挨拶をするんだ」 父がいつになく優しく背中を押してくれたのを覚えている その時の父の顔はよく覚えていない 涙で歪んだ視界ではうまく見ることができなかった 「…おじさん、さようなら…天国で…しあわせに暮らしてください」 ポツリ、と雨が鼻先にあたった [*前へ][次へ#] |