とりあえずうどん食っとけ
確かに俺の周りにゃ常識や胎児になる前に1から4億もの分身達と共に消滅してもうたわみたいな連中しかおりゃせんけど。
そんでそれは多分。俺自身がそういう部類の人間やけんなんやろうけど。類は友を呼ぶ、略して類友。はいはいじゃかあしいわバーカバーカ。

「なんがでっきょんな(何してんだ)」
「なんちゃでっきょらん(何も)」

しかしそんでも俺は。彼氏ヅラして人様の家にもうそらあ当たり前や言わんばかりの顔して上がり込んで、これまた当然げに俺を背後から抱き込んどるこいつが。この妖怪ニコチンコ変態ド腐れマヨラーが。類やとは何が何でも思いとおないってもんなんよ分かるかね?じゃかあしいわ分かれアホいや分かってください。

「飯作っりょんか」
「…今日は俺が当番やけん」

飯作っりょんが分かっとんなら最初の会話は何やったんじゃと。んでもってほんならついでに背中に纏わりついとんが邪魔になると気づけんかと。そんな俺の心境も知らんで土方は器用なもんやのと俺の手元で形を成してく焼き飯を見た。ほんまなら今頃俺の横で飯を急かっしょんは神楽やった筈や。しかしここの従業員二名は土方が姿を見せた瞬間にどっかしゃんに行ってもうた。まああいつらが飯を逃すことはまずないけんもうちょいしたらもうてくるやろうけど。

「讃岐人ならうどんちゃん(じゃねえの)」
「あ?讃岐人がうどんばっか食うとると思いなよ?」

ふとこないだテレビで見かけた番組で香川県民は3日に1回はうどんを食うとか断言しょったんを思い出して俺は舌を出した。確かにそこいらで働くリーマンらは、安うて近場にあって無難でーでその記録に貢献しょんかもしらんけど。みんながみんなうどん日和なわけないやろがっつんじゃ。せめて月3くらいやろ。まあうまいんには変わりないけど。

「…っておどれはなんしょんじゃ!」

第一讃岐はうどん店が多すぎるんじゃわとうまげに火の通った焼き飯を皿に移そうとフライパンを持っちゃげた瞬間、おんなしようにマヨネーズを待機さっしょった土方の手が目に入り俺は急いで土方から皿と飯を遠のける。ナイス反射神経。何の悪気もなさげな顔してハテナマークを浮かべるこいつの頭をどつきまわしたい。

「ほんまいらんことしいやの!」
「あ?マヨネーズかけとったらまんで(全部)うまなるんじゃわ」
「んなきょうとい(怖い)もん食えるかアホ!ごじゃはげ(滅茶苦茶)すな!」

あなな犬どころか家畜も食わんやろう餌をねき(近く)で食うとんの見るだけでもあんじゃるい(気持ち悪い)のに、なんしに他人様の飯にまでそれをぼし付けようとすんじゃ。こいつのこうゆうとこがほんま好かん。念の為俺は土方の手持ちのマヨネーズをまんで取り上げて、恨めしそうに睨むそいつをさらに睨み返した。余所んちでわがルールが通用すると思とんちゃうぞ。
土方の手に再びマヨネーズが渡らんうちにと早急に飯の用意を終わらせる。皿に盛った時にパラパラとした飯を見て流石やなと我ながら感心した。銀さんは器用なんじゃわ。ほんでマヨネーズやかかけんでも十二分にうまいんじゃわ。何気にマヨネーズを取り戻す隙を窺いよるそいつがだんだんはがいなって俺はそいつの目の前に菜箸を向けた。

「つか聞き捨てならんの、まんでうまなるとか?何や俺の飯が不味げな言い方やんけ」
「あなな小豆食うような味覚の奴にちゃんとした飯が作れるとは思えん」
「その言葉まんまお前に返したるわ」

この空気で何でそうなるんか、何で許されると思たんか、再び俺を抱き込もうと肩にまわしてきたそいつの腕を握力駆使で掴んでさらに逆しに捻りあげたった。おらぶ(叫ぶ)声を流してそのまま台所から事務所へと土方をぼし出す。

「ちょっと腰かけときまい。銀さんなめとったらこらえんぞ」

ほんまはこいつに食わせたる飯なんこひとっちゃ(少しも)ないんやけど。不名誉着せられて黙っとれるほど俺は寛大とちゃうわけや。あとここでちょっと食わしといて後で材料費と手間賃まんでこいつに請求出来んなら儲けもんじゃ。
別の小皿に取り分けた焼き飯を差し出すと土方がマヨネーズを要求してきょったがそれも流すことにした。こいつは俺の言よった意味が分かっとらんらしい。
不服をもろに顔に浮かべながら飯を口に運ぶ、が、顎を動かすたんびにその色がうすれていくんを見て俺はどうよと口端をあげた。土方は手を休めさすどころか田舎坊主よろしく皿を持ち上げてかっこみだす。勿論マヨネーズやかひとっちゃ入っとらんのにや。

「お前実は嫁向きやの」
「銀さん多才やけんなー」

頬をもごもごさせながら話すそいつに茶を煎れるんは勝者の余裕。きれーに完食した小皿を流し台に持ってきながら背中につきまとう視線に振り返った。なんでか無言に見つめあう形になって、もしかしてまだ食う気かと俺は眉を寄せる。たしかにこんくらいじゃ腹はおきん(膨れん)やろうけど。そんでも目を反らす理由はとくにないってんで、なんな(何だ)と首を傾げたら土方の口が独り言げえに呟いた。

「土方銀時」
「はっはーこれ見ていた、ごっつい(凄い)鳥肌」

腕をまくって見せても土方の目は俺の目から外れんで、俺は手を振って目を閉じた。小皿を流しにつけて、神楽達の飯にラップをかけるか否かを考える。いんだら(帰ったら)間違いなく食うんは食うんやろうが、もしかしたらお妙んとこで食うてからなんかもしれん。ほんなら一応はラップしとった方がえんかいな。

「実は冗談ちゃうけどな」
「実は知っとるけどな」

事務所からぼそりと聞こえた声に、口を緩めながらそう答えた。
結局俺は飯にラップをかけて、ちゃっかり寛ぎ体勢でおるそいつんねきに腰をおとす。顔を近付けるとうれしげに(調子乗って)ちゅーをかまそうとするそいつの顔面をちゃっしゃげたった(叩いてやった)。

「言うたやろ。俺はお前が好かん」
「…じゃあ何で付き合いよんや」

鬼や冷徹やと言われるこいつの表情は案外ころころ変わりよい。ガキみたいにどくれるそいつを見とったらなんかおもっしょなってきて、思わず笑いが漏れた。

「お前のこと好かんけど、まあ愛ある好かんやけんの」

土方はちょっとないだフリーズして、視線を戸惑わせた後、やっと脳が追い付いたんか、時差で勢いよお抱きついてきた。
本来男に抱きつかれて喜ぶような趣味はないんじゃけど、なんや犬に懐かれとるげで微笑ましい。いやはた目からしたらごっついサブいんやろうけど。うちんく既にでっかい犬おるけん今さら犬にどうっちゃとかないんやけど。

「マヨネーズなしにもうまかったが、マヨネーズはやっぱ万能やけん」

いまさっきの飯の話かと俺は体くっつけたまんま何とか土方の方に顔を向けた。確かに。こいつがもういろいろ手遅れなんは分かっとる。ほなけん別にめんめ(自分)の餌にマヨネーズかけるんはかまん。ただ俺の気分を害するけん俺の前で盛るんはやめろゆうとるだけで。でも。まあ。多分こいつがマヨネーズかけんでもうまいと認めるんはなかなかないことなんやろうから。せめて今は、今だけでも、たまにこいつに甘く接したるんも…

「このままマヨネーズプレ…」
「しゃんしゃんいねェェエ!(早く帰れ)」


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