side story
チョコレート
※サイト分裂前に日記で書いたものです。
とある街のとある喫茶店で働く、その喫茶店唯一のウェイター、ジン=ルキフェルは店前におかれたあるものを見て目を見開いて固まっていた。
手には箒とちりとりをもったままであった。
「ま、ままままマスター!!!」
ジンはものすごいいきおいで階段をかけあがりまだ寝ていたこの店の店主、ナイトレイのもとへ急いだ。
その足音や声にナイトレイはうるせぇなぁとつぶやきながら布団に深く潜る。
しかしなかなかジンが部屋に現れない。そのことを不思議に思ったナイトレイはのそのそとベットから出、ドアを少しあけて廊下を覗いた。
「・・・?」
声や足音も今はしない。
ジンの姿もない。
「おい、ジン───?」
呼び掛けるが返事はない。
すっかり冷たくなった朝の空気を肌に感じながらナイトレイは階段を降りた。
確かに階段をのぼってくる音がしたのだが、どこいった・・・?
ジンは店の厨房の片隅にちょこんと座りこんでいた。
いきなりの出来事に取り乱しナイトレイの元に向かったが、階段をのぼったところで冷静さを取り戻し静かに階段をおりてとりあえず厨房に来たのだった。
「これ、どうしよう・・・」
ジンは手で包むようにもった“それ”を困ったように見つめた。
“それ”は小さな包みに赤いリボンがまかれただけであったが、立派な“贈り物”だった・・・。
ジンは朝、店の前に落ちている落ち葉をはこうと箒とちりとりを持って外にでた。
冷たくなったドアノブを握り、外にでた瞬間したカシャンという何かが割れるような不吉な音。
嫌な予感に身をこわばらせながらもそろ〜っとドアの裏側をのぞいたジンは小さな包みが地面に落下しているのを発見してしまったのである。
持ち上げてみると明らかに中身が粉々になったことを感じさせるパラパラという音。
この包みはきっとドアノブに引っ掻けてあってドアをあけた瞬間に落ちてしまったのだろう。
ジンは知らなかったとはいえ自分のしてしまった行為に冷や汗をかいたのであった・・・。
「朝からかくれんぼか、あん?」
包みを見つめ考えこんでいたジンはいきなり話かけられビクッと肩を飛び上がらせた。
目の前にはナイトレイがジンと視線をあわせるようにしゃがみこんでいる。
「ま、マスター!」
「ギャーギャー叫びはじめたかと思ったら急にいなくなりやがって・・・朝っぱらから何・・・?」
ナイトレイはジンが持っていた包みに気付いた。
ジンはしまったというように包みを自分の背隠し、ナイトレイの顔色をうかがう。
「お前、それ・・・」
「え、えっと・・・」
ズイッとせまり、包みを奪い取ろうとするナイトレイに必死に抵抗するジンだったがこの体格差では到底勝ち目はなくあっさり包みをとられてしまった。
ナイトレイは袋の中身を確認する。
「あー・・・」
「ご、ごめんなさい!!!」
ジンは深く頭をさげて謝った。
拳をぎゅっとにぎり顔をあげようとしない。
そんなジンを見たナイトレイはふっと手をあげ、ジンの手首をひっぱる。
「!?」
ナイトレイはひっぱり広げたジンの手のひらに袋の中身をあけた。
それは割れてしまってはいたがわずかに原型をとどめていた。
「・・・バラ?」
甘い香りが漂う、茶色い花弁。
細かい細工は今でものこり、まるで本物のバラが散ったようだった。
「そ、チョコレートのバラ。毎月新作ができたら置いてくんだよな。あそこの菓子屋」
ナイトレイはほらこっから6件くらい隣いったとこの、とつけたし花弁をひとつとる。
「いつもはお前が仕事してるときとかに来るんだが・・・今日は朝きたんだな」
花弁をひとつ口に含み悪くないとつぶやきながらナイトレイはもうひとつ花弁をつまんで立ち上がった。
「ほんとはお前宛らしいぞ、その菓子」
そういうとナイトレイは厨房から出、新聞をとりに行った。
ジンはチョコレートをもったままナイトレイを追いかけ、じゃぁ食べていいんですか!?と嬉しそうに聞いてきた。
ナイトレイは郵便受けから新聞をぬきとりどかっとカウンターに腰かけた。
あの菓子屋がここに菓子を持ってくるようになったのはジンを拾ってから。
菓子屋は人見知りが激しい性格だからジンに直接菓子を渡せないのだろう。
ほんとはジンに渡したいのに話しかけられなくて、面識のある俺にいつも渡していく。
菓子屋のほうが10以上も年上だというのに。
まったく、俺の拾い物はどうしてこうも人を惹かせるのか・・・。
お前のせいで俺の周りにあつまる人間が増えたじゃないか。
まぁ、やつも楽しそうだし。こんな日々も悪くはない、か。
舌にのこるチョコレートの味がほろ苦く、そして甘くひろがった。
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