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シャドウグリーン




 夏の葉の色はよくぱっと明るいグリーンで描かれるが、雲雀のイメージはシャドウグリーンだった。
 明るいグリーンは光を反射して輝く葉の表面の部分だろう。実際人間は下から見上げるため、重なり合った部分がシャドウグリーンに見えるのだ。
 シャドウグリーンとオリーブグリーンが点々と入り混じっているのは中々美しい。だが、曇りだと濁って汚くなってしまう。

 湿気と無風に眉を寄せながら、雲雀はそんなことを考えていた。

 最近ディーノと昼食を摂る機会が無くなった。というのも、夏休みに入ったからだ。
 雲雀は最低週六日、朝九時から夜八時まで予備校で過ごすという予定だ。去年は昼間部しかとっていなかったので、果たして集中力が保つかどうかが懸念されたが、開始四日目の今日、案外ぴんぴんしている。
 予備校で過ごす夏休みより雲雀をげんなりさせているのは、この湿気だ。しかしそれ以外にも何か、

「(…あの目だ)」

 やはりまた脳みそは勝手にあのイエローオーカーを欲している。
 ディーノに会うことが無くなって、否それよりも前、普段のディーノに何も感じないと言ったあの日以来、雲雀はあの輝きを目にしなくなった。
 どうやらディーノは意識的に雲雀を恋愛対象として見ないようにしているらしい。
 なるほど、と雲雀は思った。恋愛対象として見られていた為にあの目を拝むことが出来ていたのか。惜しいことをした。

 もやもやしながら、雲雀は予備校への道を急いだ。






「…恭弥」

 エレベーターを待っていると声をかけられた。雲雀が振り向いた先には、見覚えのある金髪が立っていた。ディーノだ。
 ディーノは困ったような笑みを浮かべている。

「夏期とってたんだ」
「当たり前だろ! 高三なんだから」

 不自然な笑顔を貼り付けたまま、ディーノがこちらへ来た。程なくしてエレベーターが到着し、二人で乗り込む。
 雲雀が先に乗ったので、階数ボタンの前に立った。ひとまず目的の五階を押しながら、ディーノに尋ねる。

「先端だよね」
「え? …あ、自分で押すから…」

 ディーノがびくりと肩を震わせて静止した。雲雀が六階のボタンを押そうとするのに、ディーノが慌てて手を出して来たので、手が触れ合ったのだ。
 雲雀は特に気にする様子もなくボタンを押し、ディーノを覗き込んだ。金髪の顔ばかりいい男は、唇を噛み締めて何かに耐えるような顔をしていた。欲求を抑えているのだろう。
 だが、奥底でゆらゆらと燃える消えそうな輝きを、確かにその瞳に確認した。

「(…案外簡単に抑えが利かなくなるかもしれないな)」

 雲雀は、その強さは程遠いものの久々に見ることが出来た瞳に心臓をどきどきさせながら、五階に到着したことを知らせる間抜けな音を聞いた。







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