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インジゴ


 今の感情を色で表すなら、インジゴかなと思う。それは一見そうでなくても、静かな怒り。青と一言で言えない色。深いが、プルシャンブルーなどとは違う色。

 なんて非常識な男なのだと憤慨しながら、雲雀はそんなことを考えていた。それでいて、どこか冷静な自分がいるのを感じた。
 好きとはどういうことなのだろう。ましてや男どうしで。すき。
 どういうことだろう。

「恭弥?」

 黙ってしまった雲雀を、ディーノが焦った様子で伺っている。

「…馬鹿にしてるの」
「え」
「あなたのことを好きだなんて」
「いや、それは」
「僕は今のあなたに何も感じないしどうともならない」
「きょ…」
「それともこれが好きってことだとでも言うの? なら世の中の大半の人間に恋愛感情を抱くことになるね」

 雲雀は腹が立って仕方がなかった。しかし静かな怒りだった。殴り飛ばしてすっきりするなら、やっていたかもしれない。だが、すっきりするとはとても思えなかった。
 一方ディーノは一気にまくし立てる雲雀に戸惑っている様子だった。情けなく眉尻を下げて、しょんぼりしている。

「…ごめん」
「とんでもないこと言わないで」
「でも」

 ディーノの大きい体が、しょぼくれていつもより一回りも二回りも小さく見える。

「こないだ俺が言ったことは、…本当だからな」
「なんのこと」
「とぼけるなよ」
「…」
「先端のアトリエに、恭弥が来た時、俺がいったじゃねえか。…好きだって!」

 雲雀は驚いてディーノを見た。ディーノは雲雀をじっと見ていた。目が合ってしまった。まずい予感がする。

「恭弥、あの時抵抗もしないし、とろんとしてるし、そんで俺、その気があるんだって思っちまったんだよ…」

 ディーノは泣きそうな顔になっている。雲雀は自分が悪いみたいで嫌な気持ちになった。
 なんだそれ。僕のせいじゃないのに。悲しみが伝染して自分まで表情が歪んでいる。

「そんなの、ただの自惚れじゃないか」
「恭弥…おまえ」
「僕は、…あなたの目が」

 そこまで告げて、止めた。
 勿論、ディーノが気の毒になったからではない。ディーノの瞳が、再び雲雀が求めるそれになったからだ。
 ただ少しだけ、悲しみの色を湛えているように見えた。

「…分かった」
「…」
「もう、いい。悪かったな」

 もういいだって? まだそんなに熱い目で人を見るくせに。雲雀はディーノがまだ何か言うだろうかと思ったが、彼は淋しげに笑っただけだった。
 今までへんな事言ってごめんな、と漸く弁当の蓋を開けたディーノの瞳が徐々に影って行くのを、雲雀は静かに見ていた。





 その後も雲雀とディーノは昼食を共にしたが、それ以上も以下もしなかった。
 だが雲雀があのイエローオーカーの輝きを見ることは、それからは二度となかった。




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あきゅろす。
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