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オペラ


 胸のなかに燻るものをもて余している。
 最近、ディーノがあの目を見せなくなった。それにも関わらず、彼を見るたびこの胸は燃えるように熱い。
 手が触れるだけで、あの目を見たときのように頭が逆上せたようにくらくらする。どきどきする。今までと違うのは、ぎゅう、と苦しくなること。
 この気持ちを表すとしたら何だろう。
 やはり、そこにあるだけで目に飛び込んでくる強烈な、オペラだろうか。




「恭弥!」
 夏期講習最後の日、雲雀が予備校から出るとディーノが外で待っていた。特に約束をしたわけではないが、なぜかそういうことが増えていた。
 自然と並んで歩き出す。
「モチーフ室行くんだろ?」
「うん」
 雲雀の抱える大きなケースを見て、持つぜ、と手を出してくる。しかしディーノに預けるとろくなことにならなそうな予感しかしないので、断った。
 モチーフ室へは外から回らなければならない。いつかディーノが海水をひっくり返した、あのモチーフ室である。
 この日は電気が消えていないかった。ディーノがドアを開けてくれたので、返却スペースに置いてさっさと出てきた。モチーフ室はまだ僅かに、変に潮臭い。

 二人は、予備校から歩いてすぐの踏み切りでひっかかった。ここの踏み切りは一度閉まると五分は開かない。かんかんかんかん、踏み切りの音を聞きながら、雲雀はディーノの横顔を眺める。
 つくづく綺麗に整った顔をしていると思う。横から見たときのマルスに、雰囲気が近い。夜のネオンに照らされた頬やまつげなどは、ずっと眺めていられそうな気さえする。しかし、こうしているうちにも、ああまた自然と頬が火照ってくるのだ。
 雲雀の視線に気が付いたのか、ディーノが振り向き、どうした、と言った。
 否、言いかけてやめた。

「なに」
「…恭弥、その目」








 ディーノは見付けてしまった。
 雲雀の瞳のなかに、生まれては弾け、消えていく美しいオペラの飛沫を。

 雲雀は知らない。かつて彼が胸を焦がし何より欲したその輝きは、恋という名の、伝染する病だったのだ、と。





「すごく、…綺麗だ」









オペラの飛沫
〜2011.9.9
鳶…とげぬき



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