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the first anniversary ---あとち---
(ジェリリ)ハロウィンなので!







太陽が蜂蜜のような光を垂らす午後の微睡みのなかだった。
「リリー、ぼくと結婚してほしい」
真摯な顔で告げられた突然のプロポーズだった。
リリーは口を付けていた紅茶を吹き出さないように何とか飲み下してからジェームズにむきなおった。
「あ、あなたいきなりなにを・・・!」
頭の中で先ほどの言葉が反芻されていく。
いままでだってプロポーズなどなんどもあったことだった。
けれどいつもは、ふざけたように笑いながらいうのだ。
「今まで何度も君にプロポーズしてきたね。でも、今回はものすごく真剣だ。ぼくとの結婚を真剣に考えてほしい」
思わず言葉がでなくなった。
けれど、別に不思議なことではなかったのだ。
出会ってから何年かは大嫌いだった。
嫌悪どころではなく、もっと深い思いだった。
傲慢でわがままで最低な男。
好きになるはずでは、なかったのに。
彼は変わった。
リリーとセブルスの決別をきっかけにセブルスをいじめなくなったし、誰彼かまわずいたずらするようなこともなくなった。
だからこそリリーはジェームズの印象を少しずつ改め、つきあうほどに発展したのだ。
そして、すでに付き合ってから2年になる。
「・・・すぐに返事をくれなくてもいい。ただ・・・考えてほしい」
いつになく逃げ腰でいい去ろうとするジェームズにリリーはなんともいえない感情を抱いた。
「ふ、あはははは!」
なんだかおかしくなってきて、リリーは空気も読まずに笑いだした。
流石のジェームズもおろおろとしだしたようだった。
「な、なんで笑うの!え、もしかして今までのは遊びだったとかそんな悲しいオチじゃないよね?!ね?リリー?!」
「そうねえ・・・」
リリーの中ですでに、いや、きっとずっと前から答えは決まっていたのだけれどからかうようにはぐらかした。
「えっ、なにその反応!リリー?!」
もう成人も越えた大の大人だというのにジェームズはうっすら涙目になりながら訴える。
いたずらっぽく微笑みながらリリーは、
「嘘よ、あなたと結婚するわ!」
彼が長年好きだと言い続けた満面の笑みで答えた。
けれどジェームズはリリーが思った反応を見せてはくれなかった。
「え、うそ」
驚いているのか、呆気にとられているのか、とてもアホくさい顔をしていた。
素直な答えにそんな顔でかえされたリリーはむっとして言った。
「なによ、嘘の方がよかったっていうの?」
「なっ!そんなわけないだろ!ずっと・・・ずっと、君だけが好きだったんだから!驚いてるんだよ!嬉しいんだよ!」
見る見るうちに顔色が朱に染まっていく。
目まぐるしく変わる表情がとてもいとおしく思えた。
「ありがとう」
偶然、ほんとうに偶然ふたりの声が重なった。
好きになってくれたことに対して。
ずっと好きでいてくれたことに対して。
各々の思いをすべてひっくるめての、ありがとうだった。
「・・・ねえ、ジェームズ」
どこか遠い目をしながら、リリーが呟いた。
「ん?」
ほんのりと優しい熱に浮かされながらジェームズはそっと聞き返した。
「わたしたち、幸せにならなくちゃね・・・」
驚いてリリーを見つめると、悲しげな、寂しげな瞳をしていた。
「・・・わたしたち騎士団は決して正義じゃない。それでも死喰い人を悪として、何人もの命を奪ってきたわ・・・」
「そうだね・・・」
そっと手を握りしめると、リリーは泣きそうに顔をゆがめた。
リリーはとても正義感の強い優しい人だった。
悪だからと、人の命を奪うことにいつも悲しみの思いを重ねていた。
奪ってきた命だって一人の人間だったのだ。
人は誰も命を奪っていい権利など持ってはいない。
死喰い人が悪であったとしても、騎士団が正義だとは限らない。
彼女はその優しさ故にいつだって苦しんでいた。
魔法は人を殺す道具ではなく、人の生活をすこしだけ不思議に、楽しくするものだとマグル生まれの彼女は常々言っていた。
その彼女が守るためとはいえ魔法で人を傷つけた。
せめて、幸せな世界になるように。
せめて、安らかに眠れる世界であるように。
彼女は奪ってきた命の分まで幸せに生きようと決意していたのだった。
それは偽善だったかもしれない。高慢だったかもしれない。
けれど彼女はそれ以外にどうしたらいいのかも、わからなかったのだ。
「・・・リリー、君を幸せにするよ。絶対に」
真摯な瞳で訴えた。
彼女がもう、悲しむことのない世界へ。
もう手を血で染めることのない世界へと、変えてみせるとジェームズは心に誓った。
「あなたが夫・・・なんだか退屈しない毎日な気がするわ」
くすくすと笑い出す。
ジェームズはもちろん退屈なんてさせないさ、と笑いながらリリーを抱きよせた。
騎士団は正義ではない。
けれど確かに、未来へと続く光だった。



そして、光は未来へと届く。



「パパ」
まだまだ舌っ足らずな息子の声が足下でする。
目の色は違うけれど、外見はそっくりだ。
まだ一歳だというのにいたずらが大好きで魔法が大好きな息子だった。
「ジェームズ・シリウス」
愛おしげに息子の名前を呼んだ。
こんなにも緩やかで優しい時間が、今のハリーには流れている。
ハリーが生まれたときにはまだ小さかった光がこの時間にはあふれている。
「ねえ、ハリー」
愛する妻のジニーがゆっくりと微笑む。
そっと手を握ると、とても暖かかった。
「私たち、幸せね」
「ああ。とっても幸せだ」
世界は明るかった。
かつてリリーが望んだ世界がそこには確かにあった。
願いは、光は未来へと届いていた。

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