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(セブルス語り)リリーとハリー







リリーのかけらをずっとずっと探していた。
セブルスとリリーはお別れをしたのに、それでも彼女を探さずにいられなかった。
ホグワーツの教壇に立ってからはもっとひどかった。
ここは、あまりにも彼女との思い出がありすぎるのだ。
セブルスは今でもグリフィンドールの談話室前には行きたがらない。
あのころのままの彼女に出会えそうな期待を抱いてしまうから。
そしてそんなことは起きないとあざ笑うように、さよならのときがありありと思い出されてしまうから。
今年からは理由が加わった。あの子を、見つけてしまうから。
はじめてみたときはまだ赤ん坊だったのに、いまではもう立派にホグワーツの一年生だ。
あれからそんなに長いときが流れたのかとひそかに驚いたものだ。
あのポッターの分身のような容姿を持ってセブルスの前に現れたのだから、いびりたくなるのは仕方がない。
けれどセブルスは、いまだまっすぐに彼の目を見ることはできない。
彼女のかけらが、探していたかけらが、そこにあるのだ。
 「…せんせい?レポートの再提出にきたのですが?」
しばらく思い出に浸っていたセブルスはその声ではっとした。
(なにをしているんだ私は。まだ職務中だぞ)
心中大反省会をひらきながらレポートを受け取る。
その名前をみて、おどろいた。
今まさに考えていた少年の名前だったのだから。
思わず顔を確認してしまって、後悔した。
緑色の目が、リリーの目が、セブルスを貫いた。
「…はやく寮に戻りたまえ、ポッター」
ひきつった顔でようやくそれを絞り出した。
(はやく、はやくでていってくれ)
その瞳に引きずり込まれてしまう前に。
「はい、せんんせい」
訝しげな顔をしつつも恐怖心が勝ったのであろう、早々に退出してくれた。
セブルスは未だ緑の瞳に捕らわれたまま、うつむいた。
死してなおセブルスの心を捕らえたままはなさない。
彼女自身はそれを望んではいないのだろうとは、思うが。
 大きく深呼吸をみっつした。
これも彼女が教えてくれた落ち着くための方法だ。
別れがくる直前、O.W.L試験のときに教わった。
つまりは、彼女が最後におしえてくれたことだ。
ぎゅっと胸が苦しくなったけれど、落ち着くことはできた。
セブルスの心を乱すのも、落ち着かせるのもまた、リリーだけなのだ。
 ゆっくり瞬きをして、先ほど手渡されたレポートのチェックにはいる。
グリフィンドール 一年生 ハリー・ポッター。
たどたどしい字で書かれた名前に小さく笑顔がこぼれた。
彼女の宝物。そして、セブルスが守るべき存在。
けれどどんなにそう思っても、グリフィンドールは嫌いだ。
自分の中に持っている正義を絶対だと信じて疑わない。
正義だから、自分達のしていることは正しいのだという傲慢さ。
なにより、セブルスとリリーを引き裂いた寮であるのだから。
再び混じりはじめた雑念をふりはらってじっくりとレポートを読み込む。
「…ばかめ。これは授業で言っただろう。聞かずに教科書の文章を参考に書いているからだめだと言ったのに」
減点部分にチェックをいれながら読み進めていく。
こうして関わる度に思い知らされる。
彼はいくら彼女のかけらを持っていても、彼女とは違う。
あのポッターとリリーの混じりものだと。
深いため息をつきそうになったときだった。
そのことに気がついたのは。
レポートを持つ手がふるえ、じわりじわりと涙がこみ上げた。
気づきたく、なかった。
(この、「が」は…。これ、は)
もしかしたら思い違いかもしれない。
そうだと、思いたい。
鍵のかかった引き出しをあけ、彼女からうけとったノートを開く。
彼のレポートに書かれていたものと同じくせ字が、並んでいた。
「リ、リリー…」
涙が鼻の筋を通ってノートにこぼれた。
もう何度も読み返したノートはぼろぼろだ。
それでも捨てることはできない。
「…君はいつも、想定外のことをして、僕の心をこんなにも揺さぶるんだ。リリー…」
会いたい。会いたい。
口元まででかかった言葉をぐっと飲み込んだ。
それだけは、それだけは絶対に口にしないと決めていた。
言ってしまえばそれまで守ってきたものが壊れてしまう。
だからこそセブルスは、彼女のかけらを見つけるだけにとどめているのだ。
彼女を感じられるだけで、それだけ充分だと言い聞かせる。
こんな思いをするから、だから、あの子と関わるのは嫌なのだ。
そっと見守り、助けるだけの存在でいい。わたしがしているなどと知られたくない。
嬉しさと、切なさと、理不尽な怒りがこみあげて、セブルスはレポートに強く不可と書き加えた。



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