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(黒兄弟)レギュ死後







 糸が、途切れる音がした。
ハッとして空を見上げると、星が一つ流れ落ちるところだった。
(星が…こぼれた…)
なんともいえない気持ちが胸に広がっていく。
この気持ちに名前を付けるとしたら、ざわめき、と呼ぶのだと思う。
嫌な予感がした。
その予感はどうしてか当たる気がしていた。
 直後、姿現し独特の音がして、予感が当たったことを悟った。
「…シリウスさま。レ、レギュラスさまが…お亡くなりになられました…」
時間が止まったのだろうかと錯覚した。
耳にした言葉をゆっくりと租借して、理解するのに途方もない時間を使った気がする。
(あいつが、死んだ?)
自分の耳を疑いそうになったが、目の前のしもべ妖精の目が醜いほどに腫れ上がっていた。
たった今言われたことは真実なのだと思い知らされようだった。
「…そ、うか。あいつに殺されたのか?」
一言一言漏らしていくうちに頭が真っ白になっていった。
平常を装うのにただただ必死だった。
未練たらしくどうか嘘であってほしいと、夢であってほしいと、願い続けた。
「っ…!…左様で、ございます」
何かを言いたげに腫れ上がった目で見上げられたが、結局何も言われなかった。
なんだったのか、と問い返す余裕などシリウスにはもう残ってはいなかった。
ただ足下が抜け落ちるような絶望感が広がっていた。
「…そうか…」
「…シリウスさま、家にお戻りにはなられませんか…?」
気遣うように、懇願するように聞かれた。
けれど首を縦に振ることはできなかった。
それだけはシリウスのプライドが許しはしなかった。
「あんな家に?冗談だろ?…もう、いい。帰ってくれ」
失礼いたします、と蚊の鳴くような声をのこして独特の音と共にしもべ妖精は去っていった。
シリウスは再び一人の静寂に包まれた。
誰もいない。
やっと、涙がこぼれた。
「…っく、うあ、あああああ」
叫ぶように泣いた。
レギュラスがもういない。
その事実は苦しくてとても重たいものだった。
家を出てからもう何年もあっていない弟。
生意気で口うるさい弟。
けれど、人を愛する喜びを、苦しさを、切なさを、幸せを、教えてくれたたった一人の大切な弟。
もう、いないのだ。
泣きながら空を見上げると、満天の星が不滅の光を放っていた。
 昔、叔父のアルフォードに聞いたことがあった。
星は命なのだと。
人は皆星から生まれ、死んだら星に還るものなのだと。
そのことに敬意をはらって俺達の名前は星の名前なのだと。
レギュラスは、星へ還ったのだろうか。
今このときも空があの光を放っているのだろうか。
地上を見下ろしているのだろうか。
「なんで…俺より先に逝くんだよ…っ!」
悲しいのか、悔しいのか、切ないのか、苦しいのか、恨めしいのか。
自分の気持ちに名前を付けることができないまま泣き続けた。
今までどれだけの思いをもらっただろう。
そしてどれだけ返せていただろう。
後悔が溢れでて止まることを知らなかった。
「ごめん…ごめん、な…」
何を謝っているのかもわからなかった。
泣きすぎてぼうっとする頭を抱えて一晩中星を眺めていた。
もうなにをしても彼が還ってくることは、ないのだけれど。
 星がうっすらとし、目映い太陽が昇りはじめたころ、シリウスはひとつの答えを見つけた。
それは"生きること"だった。
生きていれば、空を見上げれば、いつだって会える。
ならば彼が生きれなかった今を生きてやろう。
星を見上げて、返しきれなかった思いをあげよう。
どれだけ離れても星はいつでもそこで輝き続けているのだから。


あきゅろす。
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