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(リーマス)入学前







月が消えれば太陽が昇る。
夜が明けて新しい朝が始まるのだ。
こんなに当たり前のことが、涙がでるほどうれしかった。
手に、足に、"自分"が戻ってくる。
僕は再び僕になれる。
「ただいま、世界」
自嘲気味につぶやく。
自分で傷つけた口元から血が滴った。
ついこの間まで僕も当たり前のことを当たり前にできていたのに。
ほんの、ほんの出来心が人生を変えてしまった。
当たり前はいつのまにかなくなっていた。
暗闇が大嫌いになった。
けれど日の当たる場所もにも、僕の居場所はなかった。
大好きな月が大嫌いになった。
けれど太陽すらも僕を嫌っているような気がした。
鏡が嫌いになった。
好きになれるものがもうなにもないような、そんな気がずっとしていた。
「お願いリーマス。そんなにあきらめた顔をしないで。わたしたちが、いけないのよ」
大好きだった母の笑顔が日に日になくなっていった。
「リーマス、父さんが出かけようなんて言ったから…ごめんな、ごめんな…」
優しくて朗らかだった父はやつれ、蒼白な顔でいつだって謝っていた。
僕が生きていることに意味を見いだすのはとても困難なことだった。
何度死のうと思ったかしれない。
何度自分に消失呪文をかけようとしたかしれない。
僕はいったいなんのためにここにいるんだろう。
そんな鬱々とした日々が、六年過ぎた。
「君が、リーマス・ジョン・ルーピンだね?」
初めて会ったが、すぐにその人とわかった。
「アルバス…ダンブルドア…!」
その人は肯定するようににっこりと微笑んでたっぷりとした髭をなでた。
(まるで、サンタクロースみたいだ)
家に閉じこもりがちだった僕はいつまでも思考が子供っぽいままだった。
けれどそのときは本当にそう思ったのだった。
そして、ある意味でそれは当たっていた。
「君を我がホグワーツに迎え入れたい」
たったさっきまで一番ほしいものは、と聞かれていたら淀みなくチョコレイトと言ったはずなのに、今はこの言葉が何よりうれしかった。
しかしそれと同時に涙がでそうになった。
「…先生はご存じないのですか。僕は、人狼です」
言葉にしてみるとなんてずっしりと重たいのだろう。
涙をこらえるのに必死だった。
けれど思っていた反応とは異なり、ダンブルドアは微笑んだ。
「大丈夫、知っておるよ。その上で君を受け入れたい。もちろん、安全措置を施した上でじゃ」
その言葉に両親は泣き崩れた。
ダンブルドアの手を取って何度も何度もお礼を繰り返した。
けれど僕だけはうなずかなかった。
「それでも、それでも僕は行くべきではないと思います」
震える声で告げるとダンブルドアは不思議そうに首を傾いだ。
「何故じゃね?君はホグワーツの入学条件を満たしておる。ただ少しおまけがついておるだけじゃ」
もう涙をこらえるのは限界だった。
本当は僕だってみんなと同じように学校にいって、普通に過ごしてみたかった。
どこまで叶うかわからないけれど、すこしでも叶うのなら最良だった。
「せん、せい…ぼくは、ふつうにいきて、いいんでしょうか」
「普通か普通でないかは大きな問題ではない。君はただのリーマスじゃ。それに、生きていていけない理由なんて誰ももってなどいないんじゃよ」
ダンブルドアはそういって僕の頭を優しくなでてくれた。
両親以外で、久しぶりに感じる肌の感触だった。
「多くのことを学んで立派は魔法使いにおなり」
なにも言えずにただただ頷いていた。

それから間もなくして、僕は念願のホグワーツ入学を果たした。
七年というすばらしい歳月を過ごし、真の友を得た。
何年、何十年と年を重ねた今でも鮮やかによみがえる学生時代。
ほんとうに幸せでほんとうに楽しくて。
「誰よりも誰よりも、あなたに感謝しています。親愛なる、アルバス・ダンブルドア。どうか安らかに」
真っ白い墓が静かに彼を多い尽くした。



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