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(アーサーとジェリリ)騎士団時代







初めてハリーを抱きしめたとき、自然と涙がこぼれた。
嬉しさだけではない感情がそこには確かにあった。
ふと鏡を見ると目を真っ赤にした自分が笑っていた。
「ありがとうリリー、頑張ってくれて。ありがとうハリー、生まれてきてくれて」
ぽろぽろと涙をこぼしながらリリーを抱きしめた。
なんと呼んでいいのかわからない感情に包まれながらリリーもそっと抱き返した。
今この世界にあるのは自分たちだけのような、そんな気がした。
幸せはこんなに近くにあったのだ。


二人で開けた酒を一瓶飲み干す頃だった。
「アーサー先輩、僕とっても幸せなんですよ」
ジェームズが呟くようにこぼした。
日も暮れ、騎士団の任務を終えたアーサーがふとポッター家に立ち寄ると二人は喜んで出迎えてくれた。
リリーはハリーを寝かしつけるからと申し訳なさそうに寝室へと引き上げてしまっていた。
「こんな状況にあってもか?」
ジェームズの状況はまるで軟禁だった。
誰よりも人を楽しませていたずらをするのが好きだった彼が、何もせず家にいるだけなのだ。
果たして本当に幸せと呼べるだろうか。
「…状況はもちろん、不満です。けれどリリーがいて、ハリーがいて、友がいる。それにこうして訪ねてくれる人がいる。それが幸せでたまらないんです」
にへら、とジェームズ頬が緩む。
「それにね、ハリーはとっても可愛いんですよ。僕にそっくりなのに目はリリーの目なんです。僕、子供があんなにすてきなものだと思いませんでした」
六人目の子供が産まれたアーサーにもその気持ちはよく理解できた。
どの子も可愛くて可愛くて仕方がない。
どんな子に育つのだろうかと考えているだけで頬が緩む。
「子供はいいもんだと言っていただろう?うちのロンとハリーが一緒にホグワーツにいくのが楽しみだな」
「そおですねえ!絶対ハリーはグリフィンドールですよ!それで僕らみたいに沢山いたずらして、笑って、生涯の友を得て…幸せに…」
話す声が萎んでいく。
夢を思い描き、語るのは簡単だ。
けれどそれを実現するためにはまずはこの暗黒の時代を終わらせなければない。
それはとても容易なことではなかった。
「…いつか、そんな日がくるさ」
慰めではなく、アーサーの希望でもあった。
すぐそばにある幸せを守るためには世界と戦わなければならない。
先が見えることはないけれど、そうなればいいと心から思った。
「アーサー先輩、僕とリリーはあの子が産まれたときに涙がでたんです。あんなにも幸せを実感したのはあれが初めてでした」
遠い目をしながらジェームズが語る。
大分飲み過ぎたのか、顔に血がのぼっている。
「いつかハリーもリリーみたいな赤毛で気の強い子を好きになるんでしょうか」
「さあな。…もし、来年生まれる我が家待望の娘と結婚するといったらうちの娘はやらんとハリーに言うのか…」
真剣な顔をして考え込むアーサーはとても滑稽に見えた。
ははは、とジェームズは笑いながら返した。
「先輩、マグルの本の読みすぎですよ。でも、そうですねえ。そのときはお手柔らかにしてあげてくださいね」
タンタン、と階段を降りてくる音がした。
振り返るとすっかり母親の顔になったリリーが微笑んでいた。
「まったく、二人とも飲み過ぎよ?それにアーサー先輩、そろそろ危ない時間だわ。ご家族の元に帰ってあげた方がいいわ」
言われて時計を見てみるとこの家を訪ねてからすでに三時間以上がたっていた。
「もうこんな時間か。そうだな、愛する家族のもとへ帰らなくては。ジェームズ、リリー、また来ても?」
コートを着込みながら尋ねた。
「もちろんよ。また息子さんたちの話を聞かせて頂戴ね。あと、愛する奥さんの話も」
くすくすと笑いながらリリーがからかう。
ジェームズはのろけなんて聞きたくないと子供のように笑った。
「ははは、じゃあお言葉に甘えてまた今度くるよ。リリー、なにかおもしろいマグルの製品があったら連絡をくれよ」
「まったく、変わらないのね。わかったわ」
マグル好きは相変わらず健在のようだ。
満足そうな微笑みを残してアーサーは帰っていった。
「リリィー…お水のみたい…」
二人きりになったとたんに甘えだし、ごろごろと転がる情けないジェームズの姿に苦笑を漏らしながら素直に水をくみにいった。
こうやってジェームズに愚痴をいわせることはリリーにはできない。
妻であるが故に彼が話そうとしないのだ。
だからせめて、支えることだけはしてあげたかった。
「ほら」
「ありがと…愛しのリリィー…」
ごくごくと勢いよく水を飲み干した。
空のグラスをごとん、とテーブルにおくとジェームズはまたへにゃりと笑った。
「ぼくらはしあわせものだねえ」
まるで子供のようにぽわんとした表情で語る。
本当にそうだった。
不死鳥の騎士団のメンバーはことあるごとにこの夫婦の顔を見にやってくる。
彼らの方がどれほど危ない立場にいるかわかっているが故にとてもうれしかった。
また会いに来てくれた。生きていてくれていた。
外にでられないジェームズたちにとってそれはとても、とても幸せな報告だった。
「そうね。ハリーはこんな優しい人たちの間で育っていけるのね。よかったわ、あなたみたいになりそうもなくて」
くすくすと冗談をいう。
「なにおー」
ジェームズは舌ったらずになった声で言い返したがすでに頭は夢の国の中だった。
「ちょっと、ここで寝るの?…もう」
はあ、とため息をつきながら呪文で毛布を呼び寄せた。
こんな日常がいつまでも続けばいいと思った。

けれど幸せの甘い蜜だけすっていきられるはずは、なかった。
悲しみは唐突に。そして永遠に。



あきゅろす。
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