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(セブルス誕生日.1/9.2011)







クリスマス休暇も終わり、新たに授業が始まるころ。
リリーはいつも興奮気味に休暇中のことをはなしてくれる。
「今年はね、家族みんなでロンドンのイルミネーションをみたのよ!」
世界的にも有名なロンドンのイルミネーションがどんな風だったか事細かにはなしてくれる。
僕はリリーのことが好きだったけれど、こんなリリーは嫌いだった。
「そう」
僕の家はいつだって怒声のたえない家だった。
両親の中は最悪で、家族と呼べるのかどうかさえ危うい関係だった。
だから僕は毎年クリスマス休暇はホグワーツで過ごす。
リリーはその事情を知りながら楽しい家族の話をする。
もちろんそれが彼女の優しさなのはわかっていた。
僕を楽しませてくれようとしてくれるのはわかっているのだが、僕には苦痛だった。
否応なく両親を思い出してしまうからだ。
「セブ?聞いてる?」
「うん、聞いてるよ」
どれだけ楽しい家族の話をされても、僕は一人で過ごすホグワーツのクリスマスが好きだった。
僕がほしかったのは静かな場所だったのだ。
ここはそれを無償で提供してくれた。
しんしんと降る雪に魔法をかけてもここなら誰にも怒られなかったし、ごちそうもある。
蔵書の数もどこよりも多く、飽きることなんてなかった。
学んで、食べて、魔法を使って、ねむる。
誰もが当たり前のように過ごす日々が僕にとっては特別だった。
家には、なにもないから。
怒声が響きわたるだけの優しさもない家。
僕がいないときは父のすべての鬱憤が母に向けられているのだと思うとすこし心が痛かったが、帰りたいとは思えなかった。
「もう、セブったらぼーっとしてばっかり!」
リリーがしびれを切らしたように怒りだした。
「そんなことない、聞いてたよ」
「じゃあ今わたしが質問したこと覚えてるの?」
試すようにじろり、とにらまれた。
正直に言うとまったく聞いていなかったのでわかるはずもなかった。
「あれだろう?イルミネーションの話だろう?」
たぶんあれからそんなに時間はたっていなかったはずだ。
「あっきれた!その話はとっくに終わったじゃない!違うわよ、あなたの誕生日の話よ!」
リリーがもういい!とはきすてて走っていった。
残された僕はただ呆然としていた。
自分の誕生日なんてすっかり忘れていたのだから。

「スネイプ先輩?」
リリーにどう謝ったらいいだろうかと思案しながら歩いていると、レギュラスが心配そうに声をかけた。
「大丈夫ですか?なんだかぼうっとされてましたけど…」
「ああ、すまない。大丈夫だ」
ぽんと頭をなでると、レギュラスはくしゃりと笑った。
もし弟ができたらこんな感じなのだろうかと少しだけ和やかな気持ちになった。
「ならよかったです。そうだ、先輩もうすぐお誕生日でしたよね?」
「ああ、確か」
なぜ僕の誕生日を知っているのか不思議に思ったが、おおかたルシウス先輩がふきこんだのだろう。
ルシウス先輩は家柄も血筋も頭も顔もいい、完璧とも言える人だった。
ことあるごとに僕にからみ、色々なところへひっぱりこむ。
死喰い人について教えてくれたのも先輩だった。
「確かってなんですか。楽しみにしててくださいね」
呆れたような笑顔をみせて、レギュラスは歩いていった。
持っていた教科書から判断するとどうやら次は呪文学の授業だったようだ。
次が空き時間の僕はどうしようかと考えたあげく、いつも通り図書館へと足を向けた。

図書館へと向かう途中、突然背中に衝撃を感じた。
「おや、親愛なるスニベルスじゃないか」
嫌でも聞き覚えた声が聞こえた。
いらいらとはきすてるように呟く。
「…いいご身分だな、ジェームズ・ポッター」
「おいおい、俺たちもいるんだぜ?」
ニヤニヤ笑いを浮かべて顔を出したのは言わずもがな、シリウス・ブラックだった。
一歩さがったところにはルーピンとピーターもいるようだが、彼らはいつも傍観者だ。
「きゃんきゃんとよく吠える犬だな」
言ったとたんに杖を構えたブラックに対抗してすばやく杖を抜いた。
「言うようになったじゃねえか、スニベルス。ご褒美をやるよ」
ばっと身構えるよりも早く、ブラックの呪文がとんだ。
この寒い時期に冷水が頭からかかった。
「少しは頭を洗うことをおぼえろよ、スニベルス」
にやにやと笑うブラックに、やり返そうと杖を降りあげたときだった。
「シリウス、だめだよ。今日はなにもしないでおいてやろう」
ポッターの頭がおかしいのはいつものことだったけれど、今日はまた一段とおかしかった。
真意がわからなくてどうしたらいいのかわからなかった。
「なんでだよ!」
「当たり前じゃないか!今日一日おとなしくしてたらリリーがホグズミードにつきあってくれるって言ったんだから!」
おそらくそこにいた誰もが思ったことだ。
ジェームズ・ポッターは馬鹿だ、と。
「…もういいよ…おい、こいつ医務室つれてこうぜ…」
戦意を喪失したブラックが他の二人に声をかけた。
「もうこの病気は直らないと思うけどね」
ルーピンがあきれたように切り捨てた。
びしょぬれの僕を残して、四人は嵐のように去っていった。

「やだ、セブ!どうしたの、こんなびしょ濡れで!」
先ほど怒って去っていったはずのリリーが目の前にいた。
どうやら図書室にいっていたらしく、大量の本を抱えている。
「別に…いつもどおりさ」
それだけ言えばリリーには伝わるのだ。
「あいつら…まったく!約束も守れないのかしら!」
怒りながらリリーは呪文をかけて僕の服を乾かしてくれた。
これで二人のデートがなくなったかと思うといい気味だ。
「ありがとう」
「いいのよ、セブは悪くないんだから」
謝るなら今だと思った。
なんせリリーとの喧嘩は長引くと面倒なのだ。
「それと、さっきはごめん」
リリーの動きが止まった。
そしてゆっくりと僕を正面から見据えた。
「…いいわ、許してあげる。じゃあもう一度聞くわね。セブは今年はなにがほしい?」
「くれるなら、なんでもうれしいよ」
心からそうおもっていたのでゆっくり笑った。
けれどリリーは困ったような顔をして呟いた。
「いつもそう言うんたから困るわ。ま、いいわ。期待してて」
いたずらっぽい笑みをうかべてリリーは寮へ戻っていった。

図書館に着くと、すぐに呼び止められた。
「やあ、セブルス」
優雅に本を読んでいたルシウス先輩が声をかけたのだった。
「…どうも」
「おや、どうしたんだい?もうすぐ誕生日だっていう君が」
にこにこと笑いながら手招きする。
ここでそばに寄らないと後で恐ろしいのでおとなしく従う。
「別に、誕生日だからといってなにがあるわけでもないですから」
さらさらとした銀髪からさわやかな香りが漂ってくる。
ルシウス先輩は僕の髪をなでながらいたずらっぽい笑いを浮かべた。
「…ふうん?じゃあ、スリザリン総出で君の誕生日を祝うことにしよう。楽しみだろう?」
固まって声がでなかった。
なにを言いだすんだこの人は。
「ふむ。そうと決まれば声をかけなくてはね。楽しみにしておくといいよ、セブルス」
ひらひらと手を振って優雅に歩きだした。
動きを取り戻した僕はルシウス先輩を必死で呼び止めたけれど、こうと決めた先輩は絶対に意志を曲げないのだ。
僕は誕生日がくるのがほんのり恐ろしくなった。

数日後、僕はリリーから薬学書をもらい、ポッター達から嫌みをもらい、レギュラスから貴重な薬草をもらった。
それだけをみれば本当にうれしい誕生日だった。
けれどルシウス先輩からの過大なプレゼントのおかげで、その年の誕生日はどの年よりもはるかに濃く記憶に残ったのだった。



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