(セブリリ)※仮想未来 あ り 得 な か っ た 幸 せ の 話 を し よ う 。 セブルスとリリー。 学生時代から、この二人は寮違いなのに仲むつまじいカップルだった。 旦那の方はスリザリン、妻はグリフィンドール。 批判する人も多かったけれど二人はとても幸せだった。 いつしか学校を卒業し、二人で遠い地方の田舎に移り住んだ。 そこには山と色とりどりの花と清らかな川、それと小さな村があった。 その村は魔法使いが一人もいないマグルの村だった。 けれどその村に薬や医者は存在せず、村人たちはひどく病を恐れていた。 だからこの夫婦がこの村に移り住んだとき、村人たちはお世辞にも歓迎しているとは言えなかった。 「こんにちは、これからよろしくお願いします」 妻のほうは甲斐がいしく村中の家に挨拶をしに行った。 けれど村人たちは一言二言で戸を閉めてしまった。 その夫婦がなにか病気をもっているかもしれないと怖がったのだ。 夫婦は村人たちが冷たい理由を知ると、ひとつの張り紙を出した。 -薬、うります。 詳しくはスネイプ夫妻まで- とても簡潔な文だった。 けれど村人たちにはこの文が神のお告げであるかのように目を輝かせた。 「こんな辺鄙な町にも薬を持ってやってきてくれた!」 翌日、スネイプ夫妻の家には多くの人が訪れた。 病気をしているわけではないので、小さなけがを見せに行ったのだ。 「ほら、ここをぶつけてしまってねえ。なにか薬はあるかい?」 もしかしたら藪医者かもしれない、そう言ったおばあさんはすぐに心を入れ替えた。 痛んでいた箇所が、夫婦の塗り薬によってみるみるうちに痛みが引いていったからだ。 「まるで魔法みたいだ!」 村人たちは口をそろえていった。 夫婦はほんとうに魔法使いだったので、否定もせず微笑みを返した。 そして見る間に夫婦は、村の人気者になった。 「奥さんの方は優しい方なんだけど、旦那さんは気むずかしいのよね。でも旦那さんの作る薬のよく効くこと!」 村人たちは口々に言い合った。 夫婦が村に来てから半月ほどたったある日、夫婦に尋ね人がやってきた。 「こんにちは、スネイプ夫妻の家はどちらですか」 顔や身体中に擦り傷やひっかき傷のある男だった。 表情は優しく、けれど青白かったのでスネイプ夫妻の噂を聞いてやってきた病人だろうと村人たちは思った。 急いで案内をすると、奥さんはとても喜んでいた。 どうやら昔なじみのようだった。 それから申し訳なさそうに村人に話した。 「今日は、誰も看てあげられないわ。ごめんなさい」 けれど村人たちはもともと病気ではなかったのですぐに了承した。 なにより、尋ね人が誰より重病患者に見えたからだった。 「いらっしゃい、リーマス。脱狼薬をもらいにきたのよね?」 奥さん、リリーは尋ね人のリーマスのために甘い甘いお茶をいれた。 昔より表情が軟らかくなった旦那、セブルスは先ほど煎じた薬を貯蔵庫から持ってきた。 「もうすこし、もうすこしなんだ。だから今月は我慢してこれを飲んでくれ」 「ごめんなさいね、来月には完成させてみせるから」 夫婦が申し訳なさそうに謝った。 「いいんだよ、二人とも。わたしのために天才薬学者とまで言われた二人がこんなところに来て薬を開発してくれてるだけで本当にうれしいんだから」 にっこり、と傷だらけの顔で笑った。 その顔が優しすぎて、夫婦は余計に切なくなった。 学生時代、この二人のことを全面的に応援してくれたのはリーマス一人きりだった。 だから夫婦は彼のことが大好きなのだ。 「いいのよ、あなたのためですもの。それに完成すればあなたと同じように苦しむ人たちも救えるわ」 「ありがとう、セブルス、リリー」 にっこりと微笑む三人の姿がゆっくりと揺らぎ始めた。 急に現実に引き戻されていく。 セブルスが目をさましたのは暖かい田舎の家ではなく、変わらない冷たい地下のスリザリン寮だった。 眠れず談話室で本を読んでいたはずがそのまま寝てしまっていたようだ。 時計をみると、小一時間も眠っていたようだ。 幸い誰も起きてはこなかったらしく、談話室はしんと静まり返っていた。 とても幸せな夢を見ていた気がするのに、彼の頬には涙の後が光っていた。 幸せすぎて、あり得なかったからなのかもしれない。 セブルスはゆっくりと立ち上がると自分の部屋へと戻っていった。 幻想はすべて静かな夜に残して。 |