(リリル)学生時代追想
そ の ま ま の 君 で い て
彼女には真実を話さなかった。
話す事がどうしてもできなかった。
時々、彼女は私の正体に気付いていたのだろうかと考える事がある。
「…気付いてたら、近づかないか…」
自嘲気味につぶやく。
自分の正体を知ってまで傍にいてくれようとする人のほうが稀なのだから。
「なにぶつぶつ言ってんだよ。どーした?」
先ほどせっかく寝癖を直して整えた頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜられる。
恨みがこもった眼で振り向くとやっぱりシリウスだった。
学生時代と変わらない整った顔で楽しそうに笑っている。
むう、としながら髪を整える。
「別に!…ただ少し、リリーのことを、ね」
「リリー?ああ、お前仲良かったもんなあ…お前とリリーが組むとすっごかった…」
だんだんと独り言を言い始めたシリウスに噴出しそうになる。
暴走するシリウスとジェームズを止められたのはリリーとリーマスだけだった。
ジェームズをリリーが、シリウスをリーマスが正座でよく説教したものだ。
「それは君たちはあほな事ばっかしてるからだろ」
「いや、うん、それもそうなんだけど、いやあ…」
シリウスが言葉を濁していく。
「なに?」
きょとんとしながら聞く。
説教以外になにかしただろうかと記憶を探る。
けれどで思い出されるのは説教のほかには特に何もなかった。
「だってお前ら…二人で変な薬作ってみたり、料理してみたり、変な動物見て笑ってみたり…」
「は?え、普通のことじゃないか!」
どんなことかと内心どきどきしていたが、普通の事すぎて拍子抜けした。
「はっ?!えっお前今普通つった?あれが…?ありゃ悪魔の祭典だぞ…」
シリウスが大真面目な顔でぶつぶつと呟いた。
聞き間違いだろうか。
「悪魔の祭典?あははは!どこがだい!」
「自覚してねーとこがまた恐ろしいわ…」
はあ、と大きなため息をつきながら呆れたように呟いた。
リーマスは彼女と自分はあの集団で唯一の常識人だと思っている(現在進行形で)のでむう、と唇をとがらせた。
「…おい、キスしたくなるからその顔やめろ」
「しばくよ」
軽口を言い合いながら懐かしい思い出の中に浸る。
あのときも、リリーは、リリーだけはリーマスを見放さなかった。
あれは、まだシリウスたちにも正体をしられていなかった頃だった。
「どうしたのリーマス!いつもに増して酷い傷よ!」
リリーが愕然とした声を上げた。
先日の満月のときに相当暴れたらしく、いつも以上にリーマスはボロボロだった。
口を開こうとしたが唇が切れているのでうまく言葉がでなかった。
「なんでも、ないよ」
すると脇から怒りを込めた声でシリウスが言い返した。
「なんでもねーわけねーだろ。…ったく、こいつさっきから俺らにもなんもいわねーんだ。もう知らねえ!」
シリウスがぷいっと拗ねていってしまった。
「まったくガキかあいつは…。ごめん、いってくる」
後ろからジェームズとピーターが駆けていった。
いよいよ見捨てられたんだろうなと思った。
無理をして入ったけれど、やはりこの学校に来るべきではなかったのかもしれない。
「なんなのあいつら。そんなことよりリーマスのそばにいてやるとかできないわけ?」
驚いてリリーを見ると、イライラとジェームズたちの背中をにらみつけていた。
「あきれ、て、ないの」
(なにも言わない僕に。なにも言えない僕に)
「え?呆れてるわよ」
ぽかんとしているリーマスの手を引いてリリーは木陰へ向かった。
そこで解けかかっている包帯をきれいに結びなおしてくれた。
深くついた傷跡を泣きそうな顔で眺めながら。
「どうしてあなたがこんなに傷だらけなのか、言いたくないなら聞かないわ。でもね、リーマス。忘れないでいて。わたしは、わたしだけはいつだって何があったってあなたの味方でいるわ。大好きでいる。だから、そんなどうでもいいような諦めたような目をしないで」
リーマスは、その言葉を聞いて少しだけ泣いた。
何かを言いたかったけれど何を言っていいのかわからなかった。
沸き上がる思いにあてはまる名前もわからずに、静かに泣いた。
リリーはおろおろとするわけでもなく、そっと寄り添っていた。
「自分のことにも適当だなんて呆れるわ。もっと自分を大事にして頂戴。あなたはわたしの大好きな人なんだから」
「…リリーは偉大な人だったよねえ…」
ぼんやりと呟いた。
シリウスは苦笑しながら紅茶をすすった。
「ありゃ偉大っつーか、ただのおせっかいだろ…。でも、誰も嫌いにはなれなかった」
リリーを悪く言う人はみんな彼女を妬んでいる人たちだった。
本当に心の芯からまっすぐで優しい人だった。
「ねえ、シリウス。リリーは、僕が人狼だって知ってても変わらず側にいてくれたと思う…?」
「あん?…ああ、あいつならいただろうと思うよ。リリーはリーマスが、そのまんまのリーマスが好きだったんだからな」
そのままでいいと言えることはどれだけ凄いことなののだろう。
駄目なところも嫌いなところも全て含めて、そのままがいいと言える偉大さと強さと優しさ。
改めて思い返すだけでどれだけ救われていたかしれない。
「僕も、リリーがだいすきだよ」
ありのままの、彼女が。
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