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(悪戯仕掛人)7巻後







目を閉じて、しばらくたったと思う。
体が宙に浮いた気がして重い瞼を億劫ながらも開いた。
すると、見たこともない景色に優しい光が満ちていた。
ここはどこだろうとぼんやりする頭で思案していると、不意に声がした。
「おはよう、ワームテール」
背後からした懐かしい声に自分でもわかるほど肩がびくっとした。
誰がいるのかすぐに見当がついたから、振り返るのが怖かった。
ガタガタと震えだす手をぎゅっと握りしめ、意を決して振り返ると愛おしい二人の姿があった。
「あ…あ…」
「久しぶりだね、ワームテール。それとも、ピーターかな?」
ジェームズがにっこりと笑って歩み寄った。
シリウスは不機嫌そうにむくれているが、なにも言わなかった。
「ど、して…」
言葉が切れ切れになってしまい、言葉を最後まで紡ぐことができなかった。
「ワームテール、君は僕らの仲間だからだよ」
「でも!僕は、君のこと…裏切ったんだよ…!」
目に涙がたまり始め、ピーターはだんだんと俯いていく。
どうして笑って仲間だと言ってくれるのだろう。
「チッ」
シリウスの舌打ちが聞こえたかと思うと、彼はいきなりピーターの髪の毛をつかみあげた。
「俯いてんじゃねえよ!お前こいつに言うことねえのかよ!」
苛々と吐き捨てるように言い放った。
ジェームズは溜息をつきながら、シリウスの腕をつかむと無言で下させた。
「チッ」
忌々しげに再び舌打ちすると、シリウスはそっぽを向いてしまった。
ピーターはあふれる涙をこらえて前を、ジェームズを見た。
最期に見た彼の顔と何一つ変わらなかった。
「ごめ…ごめんなさい、ごめんなさい…っ!ジェームズ、ごめん…ごめんなさい…ごめんなさい…」
縋るように謝り続けた。
堪えていたはずの涙がだんだんとあふれだした。
(ああ、僕は、ほんとうになんてことをしたんだ)
彼らを裏切ってから見ないふりをして、考えなかった後悔があふれていく。
ピーターは何を言われても彼らが大好きだった。
けれどそれ以上に臆病で、とても弱虫だった。
「いいよ」
思いがけないことを言われ、ピーターは言葉に詰まった。
ジェームズはそんなピーターの頭をかき混ぜるように撫でながら笑った。
「わかってるから。君は臆病で、優しくて、甘えたがりの僕らの”ワームテール”だろう?弱くてずるい、僕らの知らない”ピーター”じゃないだろう?」
はっ、と息をのんだ。
どうして彼には何でもわかってしまうのだろう。
本当はずっと、ずっとヴォルデモートに”ワームテール”と呼ばれるたびに吐き気がしていた。
”ワームテール”と呼んでいいのは彼らだけで、この名は彼らのものだった。
裏切りを犯したのは”ピーター”の弱くてずるい心だった。
「ジェ、ムズ…」
大きくて、優しくて、強い、大好きな大好きなプロングス。
頭がよくて悪戯の天才だったプロングス。
変わらない。
何一つ変わらない昔のままの彼だった。
「…ほらシリウス。拗ねてないでこっち来いよ!三人でゆっくりリーマスを待とうじゃないか。”悪戯仕掛人”の再結成だ!」
ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
それでもシリウスは拗ねているようで、ぼそりと呟いた。
「…シリウスじゃない」
この一言には流石にジェームズだけでなくピーターも驚いて大笑いした。
ふんっとそっぽを向いたままのシリウスに、ジェームズは笑いながら抱きついた。
「悪かったよパッドフット!僕の相棒、黒犬のパッドフット!」
シリウスは途端に顔をほころばせて抱き返した。
そして満面の笑みで振り返り、叫んだ。
「おいどうした!来いよ、ワームテール!」
泣きやんでいたピーターは嬉しさでまた泣き始めた。
あれほど憎まれていたはずなのに再び名前で呼んでもらえたことが幸せでたまらなかった。
「泣くなよ!…ったくいつまでたっても泣き虫だなあ、お前」
「だ、だって…」
二人の優しさがじんわりと心に沁みこんでいく。
愛されているのだとわかる。
「俺はお前からごめんの一言と後悔する気持ちを聞ければ、よかったんだ。俺だってお前を憎みたかったわけじゃないんだからな!」
ああ、この時間を幸せと呼ばずになんと呼ぼう。
彼らを心から愛おしいと思った。
ピーターはあふれる涙をぬぐって二人に抱きついた。
ジェームズも、シリウスも、笑いながらしっかりと抱きとめてくれた。
「ごめんなさい…!」
「馬鹿だな、もう、いいんだよ」
ピーターは泣き笑いでうなずいた。
「さあ、ムーニーが来るまでどんな悪戯をしようか!」








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