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(ペチュとセブ→リリ)リリ死後







「どうして…!最低!最低!なんで…」
ペチュニアの絶叫がこだまする。
瞳からは大粒の涙。
外聞など気にせず、ただ目の前の男を罵り続ける。
「…」
苦しそうな表情が男の顔にも浮かぶ。
「なんとかいいなさいよ!スネイプ!」


ペチュニアに、姉のリリーの死が伝えられたのは、ダンブルドアからの手紙だった。
宛名を見なくても字でわかった。
遠い昔に一度だけみた、特別な切れ長の字。
戸口の前にその手紙とハリーを見たとき、足元が抜け落ちそうだった。
震える手で手紙をひらく。
(リリーが、死んだ…?)
頭で反芻するとよりいっそう真実味が増した。
最悪の別れをした。
いつか謝れるなんて、どうして思ったのだろう。
明日のことなんて誰も保証してくれないのに。
リリーがホグワーツにいってしまった日に、痛いほど実感したはずなのに。
溢れそうになる涙を必死で堪えて、バーノンにハリーのことと手紙のことを伝えにいった。

ハリーを家で養うと決めてから、五日がたった。
バーノンを仕事に送り出し、ダドリーとハリーを寝かしつけて一息ついていたところだった。
庭でバン、と大きな音がしたかと思うと、チャイムがなった。
(誰…?)
不信に思いながら扉をひらき、ペチュニアは目を見張った。
そこには、ダンブルドアとスネイプが立っていた。
「こんにちは、ペチュニア。話があるんだが中には入れてもらえるかの?」
おっとりと、優しい声。
ペチュニアがなにも言えないでいると、眉間に皺を深くよせたスネイプが口をひらいた。
「近所に不信がられてもいいなら、ここでもいいが?」
ねっとりとした、相変わらずの声。
ペチュニアはむすっとしながらもふたりを招き入れた。
ダイニングで、すすめてもいないのに勝手に座るダンブルドアにペチュニアの機嫌は最悪なものになった。
「さてペチュニア。話とはリリーのことなんじゃ」
椅子にすわった途端に、ダンブルドアが本題を切り出した。
予想はしていたが実際に聞くと泣いてしまいそうになった。
「…なに」
悟られまいと、つんとした声で先を促す。
斜め前に座ったスネイプはただ苦しそうに眉をよせている。
「墓は、リリーが住んでいたゴドリックの谷にたつことになったのじゃ。一度、きては貰えんじゃろうか」
「…どうして」
「君が、唯一の親族だからじゃよ」
優しい瞳が淋しげに揺れる。
「…わかったわ。いついけばいいの」
別れははやいほうがいい。
そして、はやく忘れてしまいたい。
「魔法界での別れの儀はおわったのでな、いつでもよい。じゃが、行くときはわしとセブルスも共にゆく」
「そう…じゃあ、今日いくわ。いいでしょう?」
「よい。では、今からゆくか?それとも夜のほうがよいかの?」
夜。
バーノンが帰宅し、ダドリーとハリーを寝かしつけなければならない。
暇もないし、どう説明していいのかもわからない。
「いいえ、今からいくわ」
「わかった。用意ができたら声をかけてくれ」
ペチュニアは喪服をひっぱりだし、すばやく着替えた。
それから近所のフィッグのところに少し家をあけるのでダドリーとハリーを預かってほしいと電話した。
快く引き受けてくれたので、預けてからダイニングへ戻った。
「いいわ、いきましょう」
ダンブルドアとスネイプが立ち上がり庭へと向かった。
「家のなかでするにはちとうるさいからの」
よくわからなかったが、ダンブルドアが腕につかまるよう促したので言われた通りにした。
途端にぐにゃりと視界がゆがんだ。
遠くで先程のバン、という音が聞こえる。
(気持ち悪い…!なによこれ…!)
そんな風に考えているうちに見馴れない場所に立っていた。
「今のは姿あらわしといってな。好きなところにゆける。さて、ここがゴドリックの谷じゃ」
見たことがない風景。
そこは言い難いほど美しいところだった。
(リリーはここで死んだのね…)
気を緩めると、涙が溢れそうになる。
「…で、お墓はどこ?」
「向こうじゃ。セブルスが先についているはずじゃ」
歩きだすダンブルドアの後ろについていく。
だんだんとお墓の数がふえはじめた。
前をみるとセブルスがたっている。
「リリー…ごめん、ごめん、ごめん…」
ペチュニアたちには気づいていないのか、苦しそうに呟き続ける。
「ここじゃよ」
ダンブルドアがペチュニアを振り返り、声をかける。
スネイプの呟きもその声でとまる。
お墓は、まだ真新しく、綺麗だった。
思わずそっと触れる。
冷たい石だった。
(リリー…)
悲しみが溢れてきた。
そして、怒りが。
「…っ!どうしてよ!スネイプ!」
きっ、とスネイプを睨み付ける。
ペチュニアと同じように、泣きそうな顔。
それでも怒りをぶちまけずにはいられなかった。
「あんた…!あたしのリリーを、連れてったくせに…!なんで、守らなかったのよ…!」
叫ぶと同時にずっと堪えていた涙が溢れ出した。
もうとめられなかった。
「私だって、守りたかった…」
スネイプが呻くように言う。
「あなたにどんな理由があったかなんて知らないわ!でも、リリーのこと好きだったんでしょう?!なんで守らないのよ…!」
それは、とても残酷で冷たい言葉。
スネイプに、そして自分に向けての怒り。
もう届かない思い。
同じ思いを抱いていたスネイプにだからこそ、ぶつける言葉。
スネイプは何も言えずに唇をかんだ。
「…でも、もう、全部遅いのね。もう…いないんだもの」
ペチュニアが項垂れる。
涙が、こぼれては乾いていく。
頬がぴりぴりしだす。
「ペチュニア…。ハリーを…頼む…」
ハリー。
彼女の残した大事な宝物。
それでも大事に思えないのはもう彼女がいないからなのだろうか。
スネイプの絞り出すような声に、ペチュニアは答えなかった。
答えられなかった。
きっとハリーもリリーのように行ってしまう。
大事にすれば、きっと別れがとてもつらいから。
リリーを失った時のような思いは二度としたくない。
「…ペチュニア、来てくれてありがとう。来たい時はいつでも手紙を送っておくれ。迎えにゆこう」
ずっと黙っていたダンブルドアが口を開いた。
とても優しい瞳で、優しい言葉をくれた。
「…いいえ、もう、来ないわ」
(…さようならリリー。あなたのことだいすきだったわ)
くるり、とリリーの墓に背を向けた。
「帰るわ」
ダンブルドアは悲しげに微笑みながら、無言で手を差し出した。
再びぐにゃりと視界が歪み、バンという音が遠くでなる。
目を開けた時には見慣れたプリベット通りに立っていた。
「さようなら、ペチュニア。ハリーを、頼む」
淋しげな笑みを残して、ダンブルドアは消えた。
姿あらわしではなかったのでびっくりしたが、気にしないことにした。
もう終わりだ。
(わたしはわたしの、正常な日常をすごすのよ…)
悲しみに暮れている時間なんてない。
ダドリーとハリーを育て、守る。
それがきっとペチュニアにできる最大のこと。
ぎゅっと眉根を寄せて決意する。
決意の空は、リリーの髪色のように赤かった。




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