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(偽親子)7巻後







“俺にとって、ハリーは十字架だった。ハリーがいるから、生きようとしたし、後悔もした。幸せと不幸をいっぺんに味わった。ハリーが眼の届くところからいなくなるのが嫌だったのは寂しさだけじゃない。眼を離しているときに殺されたくなかったから。もう、失いたくはなかった。あいつを見殺しにしてしまったから。ハリーだけは何に変えても守りたかった。たとえ、自分の命を捨てたとしても。”

シリウスが神秘部での戦いで命を落としてから、ずいぶんたった。
ハリーは大人になり、結婚し、子供もできた。
ふと思い出したように、ほんの気まぐれで、騎士団の元本部へ足を向けた。
長らく使っていなかったからか、ドアを開けるとすこし埃っぽい臭いがした。
ゆっくりゆっくり、一歩ずつ踏みしめるように歩いた。
そしていつの間にかシリウスの部屋の前まで来ていた。
ネームプレートをそっと撫でた。
「シリウス…」
思わずこぼれた初めての家族の名前。
溢れそうになる涙をぐっと堪えながらドアを開けた。
最後にこの部屋に足を踏み入れたときとなにも変わらない物の位置。
クリーチャーが定期的に掃除をしてくれているのか、部屋の中はあのころよりも埃が少なく、綺麗だった。
変わらない色あせたポスターたち。
笑い続ける、4人組。
写真を撫でながらひとりひとり名前を呼んでいった。
リーマス、ジェームズ、シリウス、ピーター…。
すると、写真の貼ってあった壁からガコッという音がした。
もう一度先ほどのように名前を呼んでみるが今度は何もなかった。
聞き間違いだと思ったが父親たちにはもうひとつ名前があったことを思い出し、そちらの名前で呼んでみることにした。
ムーニー、プロングス、パッドフット、ワームテール…。
再びガコッという音がして小さな空間が見えた。
その中には表紙が擦り切れている一冊の本があった。
そっと手にとって中を開いて見ると、懐かしいシリウスの字だった。
ぱらぱらと流し読みしてみるとそれは日記のようだった。
胸がふるえた。
(こんな、こんなものが、あったなんて…)
それからハリーは貪るようにシリウスの日記を読み耽った。
日記と呼ぶにはあまりに日付が離れているページもあった。
それでも学生時代からずっと日記は続いていた。
そして、長い空白があった。
アズカバンにいたころだろう。
思い返すだけで胸が締め付けられる。
しばらくして日記が再会された。
このグリモード・プレイスを本部に使い始めたころあたりからだ。

“出たい。ここから出て、俺だって戦いたい。ハリーは、ハリーは無事だろうか。会いたい。会って抱きしめてやりたい。俺だって、ハリーを守りたい。”
“ハリーは知りたいんだ。なら教えるべきだろう?手探りで奴に挑む事がどれほど危険か。ハリーがずっとここにいてくれたら…。”

ハリーは言葉を失った。
改めて愛されていた事を実感した。
シリウスが神秘部でベールの向こう側に行く前「ジェームズ」と呼んだことがずっとひっかかっていた。
(それでも僕は、確かに、愛されていた…)
もう涙を拭うよりも日記の続きが気になった。
しばらくすると日記は一日に何枚も書かれるようになっていた。
ハリーが学校へ戻ろうと準備していたころだ。
ほとんどがハリーに関することだった。

“眼の届くところにいてくれたら。ずっとそばにいてあげられたら。俺にも本部でハリーのためにできることはないか…。”
“スネイプが来た。相変わらず憎たらしい。”
“ハリーが心配だ。あの子はジェームズの息子だ。おとなしく守られているような子じゃない。でも…。”
“今日もバックビークの部屋にこもっていた。あいつの眼は何故だか心を、寂しさ癒す。いい奴だ。”
“クリーチャーめ、忌々しい奴。いっそ出て行ってくれたらいいのに。”
“ハリー、どうか無事で。俺の知らないところであの子が死ぬのは嫌だ。耐えられない。あの子を守れるのなら俺は死んだっていい。”

シリウスの愛は常に自己犠牲の上にあるのだと、ハリーは知った。
(シリウスは、もっと自分を大切にしてよかったのに…!)
学生時代は確かに傲慢だったかもしれない。
でも、内輪にはとことん優しい人だった。
本質的には優しい人なのだ。
ただ少し、大人になりきれなかっただけ。
もっと一緒にいたかった。
愛してほしかった。
愛したかった。
それから日記を何度も何度も読み返した。
日が傾いて、部屋が暗くなって夢中で読んだ。
何度も何度も読んで、それからハリーは日記を元の場所に戻した。
小さな空間に日記が入ると自然に空間は閉じられて、元の壁になった。
何故戻したのか自分でもよく分からなかったが、そうするべきだと思った。
思い出は思い出であるべきなのだ。
すっと立ち上がったとき玄関のドアが開く音がした。
「ハリー?」
ジニーだ。
「パパ?いるの?」
リリーだ。
「うお、すげえ!なにこれ!」
ジェームズだ。
「やめなよ、ジェームズ」
アルバスだ。
妻と子供たちの声にふっと笑いながら部屋を出た。
(僕はもうひとりじゃない。愛する家族ができた。シリウスもいつまでも僕の大切な人だ。いつでも会える。思い出は、消えないから。)
「どうしたんだい、みんなして」
階段をおりて、愛する家族のもとへ歩き出した。




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