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普通迷子。
6

完全下校時刻も近い、夕暮れ刻。
道行く学生達は皆、追われるようにしてそれぞれの帰途へ着く中、私は二人と別れ一人マンションへの道をのんびりと歩いていた。

さすがに周りから向けられる、「コスプレか?」というような奇異の視線を流す事には少しずつ慣れ……いや、多分慣れたんじゃない。開き直りな気がする。という諦めの境地に入りつつあった。

そもそも私は洋服よりも和服、着物派だ。どうせ浮いた格好するならむしろ秋沙と並んで着物で歩……いやいやいやいやないないないない。
普通の格好という選択肢が消え失せつつあるとか私の汚染度危険過ぎる。

しかしこの街の学生達の珍ファッション率の高さは結構異常な気がする。なんせついさっきも、

「ウォォォオオオオオオオオォォォオオオオオこぅぅぅぅぉぉんんんんんんんんんじょォォォオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!!」

とかバカでかい声で叫びながら、そこらの新幹線よりも速そうな速度で突っ走って行った、時代錯誤な特攻服を思わせる白い長ランにハチマキ巻いた暑苦しい少年を見かけたばかりだ。

なんだったんだろう、アレ。

そもそもが街のトップからしてネジの飛んだ格好をしていたし、私を転移させた能力者の女の子もアレに比べたらマトモっぽいけど、普通に考えてブラとシャツの代わりに直サラシにブレザー羽織ってるだけとか異常な気がする。

……あれ?もしかして私の感性がおかしいの?
だんだんわからなくなって来たんですけど。

「うーん、頭痛くなってきた……。……へへへ、なんかもうこの格好も普通な気がする……そうだよ、赤い水に頭から突っ込んで水槽に逆さに浮いてる珍生物がアリならわたしなんかフツウフツウ」

「……イヤ、お前さん落ち着いて周りを見てみるにゃー。まぁ自分の属性を活かした俺的ストライクなゴスロリは高評価だが。しかし強いて言うならば小妖精ロリメイドを着てくれればよりグッドですたい」

「ハッ!?」

唐突に正面から聞こえた声に、危うく常軌を逸してしまいそうになっていた意識が覚醒する。
というか私の属性って何。小妖精ナンチャラってなんぞ。どういう意味か小一時間ほど問い質してもいいですか。
……いや、それよりその前に。彼、"気配がなかった"……?

「我に還ったか?まぁ変な服装の連中が多いのは確かだが、ぶっちゃけお前さんも既にお仲間だって事忘れないで欲しいにゃー」

「うっさいです……土御門君。貴方今、どこから……?」

「ん?普通に正面からだが。それがどうかしたか?」

いつもより幾分か低い声。常の軽い調子は消え、その色はそう、真剣そのもので。
まるで、ここに来る前に私を追い回していた連中と同類であることを思わせるような、そんな空気を纏っている。

「それで、わたしに何か用ですか?」

「あれま、ツレないねぇ。姫神や吹寄に話していたみたいに、タメ口じゃ話してくれねーのかい?」

「…………」

「まぁいいや。ちょっとばかり話があるんだが……人目がない所がいい。付き合って貰うぜい」

そう言って彼はくるりと踵を返すと、通りから外れた、マンションの脇にある公園へと入って行った。
ここで無視しても、どのみち明日になれば学校で顔を合わせる事になるし、万が一にも荒事になるなら人は居ない方がいい。
一つ小さく溜め息を吐いた私は、仕方なく彼を追って公園へと足を踏み入れたのだった。

――人気の無い、完全下校時刻を過ぎた薄暗い公園。
その中でも奥まった場所に位置する雑木林にまで来た所で、土御門君はぴたりと足を止め、こちらを振り返った。
その表情は暗さとサングラスに覆われ、窺う事は出来ない。
彼から立ち上る気配だけが、一般人のそれから"裏"の住人のものへと変わっていくのが伝わるのみ。

「これで今日六人目、かな。わたしをナンパしてきたのは。断る方の身にもなって欲しいんですけど」

「そいつはすまねぇな。まぁお前の代わりにお仕置きはしといてやったから、勘弁してやってくれ」

……なるほど、いくら休日だからって、妙に声をかけられる回数が多いと思ったら彼の差し金だったわけ。
ペースがおかしかったしね。

「それで、何のよ――――っ!?」

銃声。

ただし恐らくはサイレント式なのだろう、その音は極端に小さいものだった。
けれど、威力は本物。私の頬を掠めて背後の木に命中した弾丸は、太い幹を幾らか抉り取って食い込んでいた。

「……わたし、貴方に何かしました?」

「いんや何も。……あぁ強いて言うなら蹴っ飛ばされた事があるが、ありゃスカートの中覗いた俺が悪かったしな。顔に似合わず大人なパンツ穿いてんだな」

こいつ、しっかり見てやがった……っ!!!!

「ていうかよ、唐突に銃ぶっ放されても動じないとか、さすがは業界のお尋ねモンたる"渡り鳥"といったところか?いきなりで悪いが、お前の正体が知りたいんだが……答える気はあるか?」

「わたしも貴方の正体が知りたいのですが、貴方土御門って、"アノ"土御門ですか?」

場を支配する、二つの沈黙。
互いに互いの腹を探り合う、視線の交差。
暫し空気が凍りつくのを、私は勿論彼も感じている。
数分程睨み合いが続き、やがて先に折れたのは私の方だった。

「あぁもう、わかりました。答えられる範囲で良ければ、質問にお答えしますよ」

「ふ……そうしてくれりゃ助かる。なんせお前のチカラは得体が知れないからな。正直、戦り合ったら分が悪い」

冗談。

笑っておどけた風に言う彼の口調は、しかし言葉に反して「それでも負けない」という自信に満ちていた。

構えていたままの銃を懐にしまった彼は、手近な木の幹に背中を預け、予想通りの質問を投げてくる。

「とりあえず質問だが……お前、本当に能力者か?少なくとも学園都市の"書庫(バンク)"には原石と記録されてるが」

「そう記録されているならそうなんじゃないですか?わたしは"生まれつき"、このチカラを持っていましたし、専門用語でしょうか?原石とか言われてもイマイチ」

二度目の沈黙。互いに視線は外さない。

「……そうかい。じゃあ次の質問だ。さっき俺の名に興味を持っていたようだが、ありゃどういう意味だ?」

「土御門と言えば、色々と有名でしょう?……例えば、妖怪退治の得意な陰陽師として、とか。少し日本史に興味のある者ならば誰でも知っている名でしょうし、なかなか聞かないような名字でしょう?関係があったら面白いな、という程度の意味ですよ」

「まぁ自覚はある。今時珍しい古臭い名だしな。だがその分、覚えやすいらしいぜい?映画の晴明の真似しろと言われた時ゃ、ちっとばかりイラッとしたが」

「ふふっ、……確かに、貴方にあの役者さんのような雅な言葉使いは馴染まないでしょうね」

「ま、ライバル役が居てくれるってーんならやってやってもいいが」

「じゃあその方はまず髭を伸ばすところから始めなければなりませんね、役作り」

ここで三度目の沈黙。
一見、字面だけ追えばただ高校生が他愛もない雑談に興じているように聞こえるだろうけれど、言葉の外では刃を持たない激しい攻防が繰り広げられている。

正直、私としては一刻も早く脱け出したい。
彼がどういう手札を持っているのかが、判断に困る。
その名から真っ直ぐに推察すれば、彼はかの陰陽師直系の術者で間違いないと思う。
けど、ここは学園都市。……であるならば、彼も開発を受けて何らかの能力を得ている筈。
……が、そこでさらに彼は近代兵器で武装までしている。これは先のどちらでもなかった場合に戦闘手段のメインとして使われる危険性がある。

つまり、現時点でもし戦闘になった場合、最低で三種の対応策を練っておかなければならない。
唯一の救いは、どれであろうとある程度対応出来るだろうという事。

ただ、対応しちゃったらしちゃったでまた平凡から一足跳びで遠ざかる事確定なのが大問題なんだよね……。


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あきゅろす。
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