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Short Novels(D2-Side)
あったかも知れない日常
――ハロウィン。

これは街中を仮装した子供達が歩き回り、お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!と言っては大人からお菓子をまきあげるという一大イベントである。
――と、非常に曲解された解釈で広まった行事が催された、とある世界での出来事である。

「トリック・オア・トリート!」

「はいはい、わかったからいっぺんに来ないの!あんたらみんなの分、大奮発してた〜っぷり用意してあんだから!」

わーい!と嬉しそうに叫ぶ、それぞれミイラやら狼男やら魔女やらの仮装を纏う可愛らしい孤児院の少年少女達。彼らはルーティの言葉を聞くなり、歓声を上げて彼女の私室から走り去って行った。
まったく、一体誰が考えたのやら。毎年この日になると、ただでさえ厳しい懐事情がさらに圧迫される。大人にとってはいい迷惑以外の何物でもない。

「まぁ、あの子らの可愛い格好や笑顔が見られるだけイイのかしらね。普段は我慢ばかりさせちゃってるし」

「そうだな、俺ももっと頑張って、負担かけちゃってるルーティに楽させてやんなきゃな」

「そーねー、アンタももう少、……!?」

独り言のような呟きに返ってきた返事のした方を振り向いたルーティは、目に飛び込んできた映像に思わずギョッとして、そのまま言葉を失った。

「ん?どうしたルーティ?」

「あ……アンタ……何してんの……?」

やっとの思いで声を絞り出したルーティが見たモノ。
それは相変わらずの伸びっぱなしの金髪の頭に三角形の動物のような獣耳(犬っぽい)を生やし、鼻から口を覆うような形の左右三本ずつ生えた長いヒゲが特徴的な、これまた動物のような(やっぱり犬っぽい)マスクをし、さらにとって付けたような毛がふさふさした尻尾(どう見ても犬っぽい)までくっ付けたスタンの姿であった。

想像してみよう。

三十も半ばを過ぎたイイ大人の男性が、年もわきまえずにそんな仮装をして平然としている姿を。
その破壊力たるや、筆舌に尽くしがたい筈。
ちなみに忘れていたが、彼の両手と両足には毛皮の肉球グローブと肉球ブーツが装備されているが、胴体は何故か普段着だ。

「勿論、狼男の仮装だよ。カイルと二人で作ったんだけどさ、あいつ途中で飽きちゃったらしくて別のを作り始めちゃって。せっかく作ったんだし勿体ないから完成してたこっちは俺が使うことにしたんだ」

犬ではなかったようだ。

「 ――じゃなくて、なんでアンタまでノリノリで仮装してんのよ!!しかも何それ?なんか尻尾がフリフリ勝手に動いてるけどどーなって……イヤイヤ。遊んでるヒマあるなら、もっと準備手伝ってくれても良かったでしょ!?」

「いやーそうしようとは思ってたんだけどさ、いざ試着してみたら結構気になるところが増えてって、本格的に完成したのは昨日の夜中で……ふあ」

寝不足を訴えているつもりらしいスタンは、ルーティの文句もお構い無しに大あくび。

ぷちん。

「ア・ン・タ・はぁ〜〜…………っ!」

「え、なんでお玉とフライパン持ってんの?俺もう起きてるよ?ていうかもうお昼だよ?ちょっと、あれ?」

切れてはいけない何か危険なソレがルーティの中で弾け飛び、そこそこに年季の入った得体の知れないオーラ漂うアイテムを携えスタンへとにじり寄る。
対してスタンはそんな彼女から距離を取るべく一歩二歩と後退りしていったのだが ――――やがて彼の背中に壁が触れることでそれも不可能になってしまう。

「ちょっとは恥を知りなさいこのドスカタン!!裏秘技・死者の眠り!!」

「うおわっ!?それただの撲殺兵器!?」

「うるさいっ一発殴らせなさ〜い!!」

頭上や、肩口や、顔と見せかけての意表を突いた足払いをするように襲いかかってくるフライパン&お玉の二刀流。
その姿はまるでかつてのつんけんした少年剣士を彷彿とさせるようで、流石は姉弟だ、とスタンはひょいひょい回避しながら思ったとか。
しかし笑っていられたのも僅かな数分後、彼はついに避けきれずに見事なフライパンビンタをくらいノされてしまったのだった。

2020/9/22

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