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Short Novels(D2-Side)
軽く拷問です。

(あー……)

ぱち、ぱちり、と炎の爆ぜる音。
先程から視界の隅では、銀髪の大巨人と黒髪に獣の骨を被せた巨人が言い争っているのが見える。

(うーー…………)

実はずっと起きてはいたので、今より少し前の黒髪巨人と半透明巨人の会話も全部聞いていたりする。
その姿を眺めて、「傍目にはぼっちをこじらせ過ぎて剣とお喋りしちゃうエア友マスターにみえますねー」などと声をかけようかと思っていた。

(ぬーー〜………………)

だというのに、黒髪巨人の方が剣を熱く見詰めながら「この旅で僕は、カイルを……」とか呟いちゃってるところに、運悪く銀髪巨人が起きてきたものだからさぁ大変。誤魔化すにしてももう少し言葉を選べばいいものを、例によって無駄にトゲのある得意のウニ言語で煽っちゃったもんだからめんどくさい。

(ふお〜〜〜〜〜〜〜〜……………………)

あれはお互い引くタイミングを完全に見失ってしまっている。ただの殴り合いで済めばいいが、万が一武器を持ち出すような事態になれば「敵将、討ち取った」と首級を掲げるのはどちらかなんて目に見えている。ちょっとまずい状態になってきた……と思えば。

今度はピンクのふわふわ巨人が乱入した。

あれはまずい。もっとまずい。基本的には優しい子だけど、ああいう思い込みの激しそうなタイプは怒らせると怖い。というより持っている"力"がヤバい。主と同等以上の力が暴走でもしたら、どうかすると地形が変わる。

(むいむいむいむいむ……あっちっ!)

と、恐々としていたら主が起きた。一応、諌めるために起きてくれたみたいだが、遅かった。あの方なら火に油を注ぐような愚行はしないとは思うが、だからといってこの状態をなんとか出来る程、あの方は対人経験がない。つまり、出来ても緊張に疲れて自然に解散するのを待つのが関の山。
この場合の解散とは、パーティの解散を意味する。片方は雛鳥を守る神経過敏な親鳥よろしく不信感と警戒心丸出しだし、もう片方はどうにも捻くれてる上に何か事情があるのか、一定以上は踏み込ませない。こんな状態じゃ旅なんて続けられない。

(どーしましょーかねー……って、熱っ!あっちゅいっ!!)

悩んでいる内にこちらもちょっと気まずいことになってきた。今この状態で下手に動こうものなら、大惨事は免れない。

「りあら〜」

(…………は?)

動けないなりに必死の抵抗をしていたところに、なんとも間の抜けた声がするりと飛び込んできた。
なんだろう?と意識をそちらに集中すると、どうやらつい先程までの騒ぎの中、相変わらずの爆睡っぷりを披露していたハリネズミ巨人の寝言らしかった。姿を見ることは残念ながら出来ないが、平和そうな顔して寝ているんだろうな、と想像はついた。

「……いっしょ……ロニも……ジューダスも………ユカリも……おまけに……ふぃ…………いっしょだ……へへっ……」

(お ・ ま ・ け ・ か ・ よっ!!)

しかも名前途中で発音切れちゃってるし!なんて失礼な子だ!可愛いけど失礼だ!
どうやら今の(個人的には)失礼極まりない寝言のおかげで、ヘビーなムードに包まれていた皆は最悪の事態を免れたようだが、自分は騙されない。
おまけって何さ。使い魔差別反対だ!

(あー……もう、疲れた……)

抗議したいのは山々だが、相手はフライパンとお玉の悪魔以外じゃそうそう起きないような筋金入りの寝坊助だ。早々に諦める。今、自分がどれだけ叫べたって無駄だろう。
……と、そうこうしている内に、再び皆はお休み状態に入ったようだった。……………って、ちょっと。

(あつっ!あちゅいっ!!あちゃちゃちゃちゃっ!!!!燃える!!私燃える!!)

気が付いたら炎の先端が、背中に触れそうな程にまで高くなっていた。これはまずい。このままでは「上手に焼けましたー♪」では済まされない。行き着く先は灰だ。

(ふぬぬぬぬぬぬっ……!だ、だれか…たす、たすけっ……!!)

小屋の中で暖をとる為に焚かれた焚き火の直上。本来ならスープなどを作る鍋を吊るすための仕掛けの位置にて、豚の丸焼きみたいな格好で干されたぬいぐるみ状態のフィオは、必死で体を持ち上げてなんとか炎から逃げていた。この状態では多少動けはしても、口が"開かない"ために喋れないのだ。――――と、

「おいおい、危ねぇな。火が高くなっちまってら。このままじゃフィオが燃えちまう」

ひょい、と吊るされた棒ごと持ち上げられ、九死に一生を得た。

( 神 よっっ!!)

「…って、もうすっかり乾いてんじゃねぇか。んじゃま、解いてやるか」

しゅるしゅると縛られていた手足の紐を解かれ、自由になる。案外優しく床に寝かせられ、その扱いに安心した。……もっとも、ぞんざいに投げられでもしたら命の恩人とは言え飛び蹴りの刑に処すところだったが。

「しっかし、いくら湿気を吸ってじっとりしていたとはいえ…中々酷ぇ扱いだな。お前、何かしたのか?」

つん、と軽くほっぺをつつかれる。やっぱり、扱いが優しい。

(あー…ピンチを助けて貰った上にこの扱いはちょっと惚れ……掘れ掘れワンコ!!)

危ない。これが吊り橋効果か…恐ろしい。

(まぁ何かしたっちゃーしたんですけどね。さっきのひと悶着の前に最初に寝る時、ユカリさまが寝たと思って服の中に忍び込んだらバレまして…で、ハードなお仕置きされてました)

「ま、いいけどよ。……ふあ〜…やれやれ。無駄な体力使っちまったな」

彼はこちらに背中を向けて、小屋の入り口の階段に腰掛ける。なんだ、疲れているならそう言えばいいのに…。
あぁ、もしかしてさっきの皆さんに対する罪滅ぼしのつもりなのかな。それと、年長者の意地。

心の中で苦笑いしつつ、人の姿へと変じる。そうして、彼に声をかけた。

「こーんばーんはー。御勤めご苦労様でっす」

「ん、あぁ、フィオか。お前さっき軽く燃えそうになってたぞ」

「ですねー。意識はあったんですけど、あの姿だと喋れないんで。正直、助かりました。ありがとうございます」

ぺこりと頭を下げれば、構わねぇよ、と笑われる。

「んで、せっかく危ないとこを助けて貰ったので、お礼に私を好きにしていいですよ」

「ブーーーーッ!!おッ!!おまッ!!!!!?」

「いえ冗談ですケド」

しれっと舌を出して言えば、盛大に吹き出していた彼は顔を真っ赤にして「言っていい冗談と悪い冗談があるだろがっ!」と怒っていた。無論、ちゃんと声を抑えて。

「ソレはさすがに冗談ですが、お礼はします。見張り、代わりますんであなたは寝ちゃって下さい」

「あ?い、いやまだ俺も代わったばっか…」

「眠そうにあくびしてたじゃないですか。リアラさんに"寝付けない"なんて言ってたのは、彼女に気を遣ったんですよね?」

「…………」

「なので素直に代わって下さいな。私はユカリさまの力が途切れない限りは疲労や睡眠不足で体調を崩す事もありませんし、気にしないで下さい」

「湿気でへばってたのにかぁ?」

「まぁ…でもこの中でなら湿気もそこまでじゃないですし見張りくらいなら問題ありませんよ。火も焚いてる事ですし」

「ああ、まぁそうだろうが…」

「一度は声をかけた美女からの"お願い"、叶えて貰えません?」

にこりと笑って引かない事を主張してやれば、目をしばたたかせてきょとんとした後、彼は軽く笑って降参してくれた。

「ったく、自分で言うなっつーの。そこまで言われちゃ仕方ねぇよな。このロニ様が美女からのお願いを無下に出来るわけがねぇや」

「ありがとうございます。借りっぱなしは嫌なので」

「へっ、………ありがとよ。んじゃ頼んだ」

そう言って彼は立ち上がり、手を差し出した私と軽くタッチをして毛布にくるまった。

(さて、それじゃあ皆さんが起きるまで見張り、がんばりましょうか)

ぱちぱちと爆ぜる焚き火の炎が、少し冷える夜の小屋を暖め続けていた。

2015/04/19

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