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月へ唄う運命の唄
山小屋の出会い6

この術式には、基本的に媒介となる道具・装備品は必要ない。言ってしまえば通信する者同士の真名(本名)が媒介になるからだ。その為ある程度力の使い方を心得ているならば、その力の源が何であれ相手の姿と名を思い浮かべるだけで起動出来る。

しかし、クノンはイメージの補強として、胸元のクロスペンダントを手の中に包んで抱くようにしてから起動させる。…いつの頃からか、こうする事が癖になってしまっていた。本来は必要の無い行為であると理解はしているのだが。

《……エミリオ、…エミリオ?…聞こえたら返事して》

《蒼羽か!?お前今まで一体何をしていた!?今一体どこに居る!?無事なんだろうな!?》

回線が繋がるなり物凄い勢いと音量で捲し立てられた。物理的な空気の振動で会話するわけではないので実際には気のせいなんだけど、耳が凄く痛い。…それでも、なんだかやけに久しぶりに聞いた彼の声に安心した。呼んでくれる本名と、心配してくれていたと取れる言葉が嬉しくてたまらない。

《飛行竜がモンスターの大群に襲われ消失したと聞いてどれだけしんぱ……気を揉んだと思っている!!こっちは生き残った兵の世話やら事後処理やらで大変だったんだぞ!!》

《ごめんね、私の方は脱出に使った船が故障して墜落しちゃったおかげで何日か気を失っちゃってて。連絡が遅れちゃった》

《おい。墜落しただと?怪我はないのか!?》

《ん、大丈夫。今はファンダリアの山小屋でとある人にお世話になってる。今晩まで泊めて貰って、明日の朝にはダリルシェイドに向けて出発するから心配しないで》

《そうか…。いや待て。僕はお前の心配などしていないからな。お前が回収しに向かったと聞いたソーディアンがどうなったのかの心配だからな》

さっきから思いっきり私の身を心配してくれてた癖に、指摘された途端意地を張るんだから。……可愛いお兄ちゃんめ。

クノンは内心苦笑しながらもそれも大丈夫、と伝え、ダリルシェイドへ戻るまでの大体の予定と日程を伝えてから通信を切った。

「まったく、素直じゃないんだから」

『何を言われたのかは大体予想はつくけれど、あんまりからかうのもよくないわよ?』

そういうつもりじゃないんだけどなぁ。

ちなみにだが、この通信巫術の会話は術者同士以外には聞こえる事はない。例え同じように術者の真名を知っていようが、紫桜姫のように術者と契約しその身と融合していようが無関係である。互いに結ばれた契約者間でのみ成立するのだ。だからこそ特別な意味を持つとされる真名が媒介として必要なのであり、またいかなる距離をも飛び越えての会話が可能なのである。
またそのような特性上、ある意味では"特別な絆を持つ者同士だけ"の秘密の術式、という側面を持つ。それをクノンが意識して理解した上でリオンと契約したのかは謎なのだが。

さて、これでやっておきたい事も済んだし、私もそろそろ休ませて貰おうかな。シャワーを浴びたい気もするけど、時間も時間だし起きてからでいいや。あぁ、そういえばスタンとディムロスって契約しちゃったのかな。それも聞いておかなきゃだけど眠いし明日にしよう。

そう決めたクノンは足早に寝室へと戻ると、先に眠ってしまっていたスタンとチェルシーの二人を起こさぬよう気を付けながらそっと柔らかな布団の中へと潜り込み、静かに眠りに就いたのだった。


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あきゅろす。
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