[携帯モード] [URL送信]

月へ唄う運命の唄
山小屋の出会い4

そうして話し込んでいるうちに夕食の準備が出来たらしく、桃色の髪をした小柄な女の子が一人、寝室へと呼びにやって来た。
……たまに思うけれど、この世界の人の髪って、なんだかやたらカラフルだなと思う。しかも、それらが見事に似合っているから尚更不思議。

「あの、お夕食の準備が整いましたので、盛り上がっていらっしゃるところ不躾だとは思いますが、お呼びに上がらせていただきました」

なんか無駄に丁寧な話し方。不快ではないけど、なんだか可愛らしい見た目とミスマッチで少し面白い。

「ありがとう。お世話になってます、クノンと申します。あなたは?」

「は、はい!ご丁寧にありがとうございます!私はこの家の主、弓匠アルバの孫、チェルシー=トーンと申します。以後お見知り置きを」

ぺこりとお辞儀つきで、これまた丁寧に名乗ったチェルシー。弓匠、という事は、アルバさんは弓の先生なんだ。

「あなたも弓を?」

「はい!まだまだ未熟も未熟、修行中の身ではありますが、祖父の名に恥じぬよう日々此精進、弛まず研鑽を積む毎日です!」

ここまで徹底してると、面白いを通り越して微笑ましくて可愛い。その元気さも相まってなんだか無性に愛でたい衝動にかられてきた。具体的には抱き締めてぐりぐり撫でたり頬擦りしたい程度には。ぬいぐるみとかペット感覚?

「そうなんだ。なら挨拶も済んだし難しい話も切り上げて、冷めない内に夕食をいただきましょう」

はい!と元気よくこたえるチェルシーに、ちょうど腹減ってたんだよ、と情けなくも嬉しそうな声を上げるスタンを伴い居間へとお邪魔する。

少し広めの居間では、やはり雪国の山小屋らしく赤い煉瓦造りの暖炉があり、その中では煌々と炎が燃え上がり小屋を厳しい寒さから守ってくれている。設置された四角いテーブルにはこの地方のものだろう、あたたかな郷土料理の数々が並んでいた。そしてそのテーブルを取り囲む形で木製の椅子が五脚配置されており、その内の二つにアルバと、褐色肌に銀髪の青年が腰掛けていた。

「やぁ、目が覚めたようで何より。さ、遠慮せずにかけたまえ」

爽やかな笑みを向け着席を促された私達は、それぞれ思い思いの椅子に腰掛ける。

「お世話になっております、クノンと申します。この度は気を失っていたところを助けていただいたそうで、ありがとうございました」

とにもかくにも、まずは挨拶とお礼はしなきゃ。

「丁寧な挨拶、痛み入る。私は弓匠アルバの弟子のウッドロウという者だ。何、気にする事はない。私はただ、見過ごせない質でね」

チェルシーとはまた違った意味で、凄く丁寧な話し方。それに物腰も柔らかく、嫌みがない。どことなくある種の威厳のようなものを感じる辺り、高貴な家の出なのかも知れない。
と、そこまで推察したところで一つ引っ掛かった。この世界に来てからの一般教養として膨大な資料を読み漁った中、滅多な事でもない限り縁がないため記憶の片隅に追いやっていた中の欠片の一つに、不意に触れる。

……此処は雪国で、ファンダリアの山中。ウッドロウ……確か現王族の中に王子が一人居て、その名前が……あっ。

記憶を漁るために中空に置いたまま焦点の合っていなかった眼が、はたと正面に座る銀髪の青年の視線とぶつかった。
ふっ、と僅かに上がる口角に、少しだけ悪戯な表情。思い当たった彼の正体に少々緊張したものの、この視線のやり取りだけでもわかる気さくな人柄に救われる。

そういうこと、ね。…あぁ、という事は向こうも私の事は知っているってことか。それにしても、面白い人。

「さて、せっかくの料理だ。冷めない内にいただこう」

ウッドロウのこの一言を合図に、各々並べられた数々の料理に手を出し始める。食べ慣れたヒューゴ邸でのマリアン達の料理ともまた違った美味しさに、思っていた以上に疲労の蓄積していた身体が癒されていくのを感じた。


[*前へ][次へ#]

4/8ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!